『黒牢城』レビュー
戦国ミステリーの形式を借りて描かれる、権力・信仰・成果主義の牢獄
『黒牢城』は、戦国時代を舞台にしたミステリーである。だが、本作を単なる「時代劇ミステリー」として消費してしまうのは、いささか惜しい。本作が本当に射抜いているのは、戦国の世における権力と忠義、信仰と死生観、そして何より「勝ち続けることを強いる価値観」そのものである。
観終えた直後、私は率直に「大傑作」だと思った。それと同時に、見る前にこの作品に対して抱えていたイメージとの乖離に、大きく戸惑った部分もある。もっと人間に対してドライな作劇を想定していたからだ。しかし本作は、知的な構造を持ちながらも、決して冷たい映画ではない。むしろその内側には、戦乱に巻き込まれた人々、勝ち続けることを求められた男、そして死の恐怖に晒された民衆に対する、きわめて切実な眼差しがあった。
有岡城という密室
簡単なあらすじを説明すると、物語の舞台は有岡城で、織田信長に反旗を翻した荒木村重がそこに籠城する。村重は毛利の援軍を待ちながら、城内に渦巻く不安、疑念、恐怖と向き合っている。そこへ不可解な事件が相次ぐ。
密室状態で見えざる矢によって殺される人質。手柄をめぐる対立と、凶相へと変じる首。密使として城外へ向かうはずだった僧の死。そして、どこから撃たれたのか分からない狙撃の謎。いずれも本格ミステリーの興趣を孕んだ事件でありながら、同時に、城内の人心を揺るがす不吉な兆候として立ち現れる。
事件のたびに、村重は自ら調査を行い、最終的には地下の土牢へ向かう。そこに幽閉されているのが黒田官兵衛である。官兵衛は織田方の使者として有岡城を訪れ、村重によって捕らえられた。敵であり、囚人でありながら、彼は圧倒的な知略を有する人物でもある。村重は、官兵衛の知恵を借りることで事件の真相に近づこうとする。
官兵衛は現場に出向かない。土牢に閉じ込められたまま、村重から提供される情報だけを手がかりに推理する。この構図に困惑する声をSNSでは見かけるが、これはいわゆる「安楽椅子探偵」である。自ら能動的に調査を行うことなく、提供された情報のみで解決に導く探偵役をミステリー用語で「安楽椅子探偵」と言う。
米澤穂信の作品世界に目を向けるならば、『クドリャフカの順番』における折木奉太郎もまた、「安楽椅子探偵」の具体例として挙げられる。古典部シリーズは『氷菓』の題で一定の範囲までアニメ化されているが、個人的には『ふたりの距離の概算』までぜひ映像化してほしかった。もっとも、これだけの時間が空いてしまった現在、その可能性は決して高くはないだろう。
——閑話休題。
話を『黒牢城』に戻そう。
さて、そんな具合に牢に繋がれた官兵衛が「安楽椅子探偵」として怪事件に挑む本作。題名の「黒牢城」も当然そのことを指していると感じるだろうが、この映画において真に囚われているのは、はたして本当に官兵衛なのだろうか。
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