AIが「編集者」になっていく世界でメディア空間はどう変わるか~~人間社会とAIが融合していく未来を考える(6) 佐々木俊尚の未来地図レポート Vol.909

佐々木俊尚の未来地図レポート
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 佐々木俊尚の未来地図レポート     2026.5.18 Vol.909 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ http://www.pressa.jp/ 【今週のコンテンツ】 特集1 AIが「編集者」になっていく世界でメディア空間はどう変わるか 〜〜人間社会とAIが融合していく未来を考える(6) 特集2 「ニューラグジュアリー」は、これまでの贅沢とは異なる 未来地図キュレーション 佐々木俊尚からひとこと ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ■ 特集1 AIが「編集者」になっていく世界でメディア空間はどう変わるか 〜〜人間社会とAIが融合していく未来を考える(6) ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 記事や文章などのコンテンツが人間に読まれるのではなく、AIエージェントに読まれるだけになっていく世界。AIエージェントはそれらのテキストを解釈し、要約し、わかりやすく人間に伝えます。つまりAIエージェントは、編集者の役割を果たすようになっていくと言えるでしょう。 わたしは2011年の著書「キュレーションの時代」(筑摩書房)で、SNSの時代にはコンテンツそのものではなく、コンテンツをどう解釈しどのような文脈にそれを乗せ、共有していくというキュレーション行為こそが情報流通の中心になっていくと説きました。あの本から15年を経て、時代はさらに一歩進もうとしています。コンテンツでもなく、キュレーションでもなく、AIエージェントがエディター(編集者)を務めるようになってきたのです。 これはメディア空間においてAIが大きな権力を持つことを意味します。それは古いメディアの世界で、雑誌の編集長やテレビ局の編成が大きな権限を持っていたのと同じ構図です。ただしAIエージェントがエディター化することには、いくつかの問題があります。 ひとつは、AIがコンテンツをどう解釈するかということに、人間の理解が依拠してしまうようになってしまうことです。AIがどの記事をピックアップし、どう要約し、どの視点を強調するのかによって、人間が世界を理解する「見方」が変わってしまう。これはAIがメディア空間を支配してしまうことに他なりません。 そもそもAIは、極端な外れ値は選択しません。AIは内部に評価関数を抱えており、「この出力が、人びとの大多数に評価されるかどうか」を基準に出力を決めます。自然と出力内容は、平均値や中央値に近いものにならざるを得ない。だとすれば、外れ値だが重要な視点がAIのメディア空間では削ぎ落とされてしまうということになります。これは言論の多様性を減らし、言論を狭くしてしまう危険性があります。 しかしだからこそ、外れ値に近い人間の文章には価値が出てくる。この未来の先には、人間が発信したものを人間がAIエージェントを介さずにわざわざ読む、という行為の価値があらためて確認されるということにもなりそうです。では、どのような外れ値が価値を持つことになるのでしょうか。 わたしは三つのポイントがあると考えています。第一には、人間の持つ一次情報の価値が再発見されるということ。発信者である人間がその現場でしか得られない体験や感覚を描くこと。つまり生身の身体性を持った情報が価値を持つようになるのです。 第二には、コンテンツそのものではなく、AIにはできない解釈を行える人間のキュレーションの価値。 「外れ値的キュレーション」とでも呼ぶべきでしょうか。あるコンテンツが持っている意味あいを独自の文脈に基づいて他のコンテンツとも紐付け、それによって総体的な世界観を提示するのです。 このようなキュレーションを行うためには、専門分野を深掘りするだけでなく、さまざまな分野や領域を横断的につないでいき、横断的に文脈を描ける知性が必要となっていきます。専門領域Aのある地点と、専門領域Bのある地点を、思いもよらない発想で結びつけるような手法です。 わたしは日々ChatGPTを使っていて感じるのですが、現行のAIからはそのようなAとBを強引に結びつけるような発想はなかなか出てこない。外れ値に行き過ぎてしまうからかもしれません。しかしわたしの方でAとBを提示し、ChatGPTに対して「AとBを結びつけると思うんだけど、どういうロジックになるか考えてみて」と指示を出すと、そのロジックは見事に組み立ててくれます。 これはつまり、AIは突拍子もない仮説を立てるのは苦手。しかし仮説を受け取ってそこにロジックを組み込むことは非常に有能と言うことだと思います。今後、AIがさらに進化していけば「突拍子もない仮説」も立ててくれるようになるのかもしれません。しかしAIが人間社会からの評価を重要視し、中央値平均値によりがちであるという傾向を取っ払わない限りそれは難しい。となるとパーソナライズして評価関数を別の形で計算するような新たなアルゴリズムをAIが持ちうるかどうかという話になっていくでしょう。 そこで外れ値の価値の第三のポイントとして、人間とAIが今後どのような共存モデルを構築できるかということ。ここまで書いてきたように、AIには持てない人間の価値として、一次情報や身体性、外れ値である分野横断的なキュレーションなどがあります。これらの人間の価値を、AIとどう組み合わせれば共創的な関係を作ることができるのかを考えていく必要があるでしょう。

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