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佐々木俊尚の未来地図レポート 2026.2.23 Vol.897
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【今週のコンテンツ】
特集1
登山テックを駆使して山岳遭難を減らしていくという可能性
〜〜山岳会に入らない個人が遭難対策を万全にするのは難しい
特集2
読者の方々からのいろんな質問に答えてみるシリーズ
未来地図キュレーション
佐々木俊尚からひとこと
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■ 特集1
登山テックを駆使して山岳遭難を減らしていくという可能性
〜〜山岳会に入らない個人が遭難対策を万全にするのは難しい
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いま、登山の遭難対策は大きな岐路に来ていると感じています。それは組織登山が衰退し、個人登山者が圧倒的な多数を占めるようになった結果、登山の基礎的なトレーニングを受けないまま、また遭難対策もろくにとっていないまま山に入るというのが当たり前になってしまったからです。
個人的な経験で振りかえれば、わたしが夏山から始まって冬山、そして岩壁登攀へと乗りだしていた20代のころは、組織登山が当たり前でした。
大学の山岳部やワンダーフォーゲル部、登山サークル。社会人山岳会。わたしは登山サークルを入口にして社会人山岳会にも加入していましたが、ひんぱんに登山の合宿が行われ、そこが訓練の場になっていました。「いきなり穂高・槍ヶ岳」「いきなり雪山」などは許されず、奥多摩や丹沢の低山で重荷を背負って歩くボッカ訓練を繰り返し、冬になると富士山五合目のゆるい斜面で雪上訓練を受けさせられたのは懐かしい思い出です。
登山届を提出するのは当たり前で、登山の際には「在京連絡者」も組織内で指定しておき、非常の際はここに連絡が入る仕組みがとられていました。これはどこの登山組織でも同じようなものだったと記憶しています。
しかし、これらはすっかり昔話になってしまいました。今でももちろん元気に活動している組織はあるとは思いますが、山で見かける登山者の大半は個人登山か、あるいはツアー登山です。訓練を受ける機会は少なく、個人登山だと遭難対応も不十分。登山届を出す人も減っているという指摘は以前から言われています。ツアー登山ともなると「お客さん気分」が抜けず、自分の身を自分で守るという姿勢に欠けている人が多い……というのは、以前とあるガイドさんから聞いた話です。
見よう見まねで高難度なバリエーション登山に入ってくる人も増えています。たとえば雪山登山の経験がない人が、難易度が高いので有名な積雪期の北アルプス・穂高連峰に入り込んで遭難してしまうというようなケースです。
このような状況に眉をひそめるベテラン登山者は多いでしょう。わたしも「困ったもんだ」と思います。
しかしそうは言っても、21世紀のこの時代になって今さら組織登山が復活するとは思えません。「山岳会に入れ」と強制することもできないでしょう。しかし山岳遭難者があまりに増えてしまうと、一般社会から呆れられ「登山を規制すべきだ」という世論が出てくる可能性も否定できないのではないでしょうか。外国人登山者も激増したしばらく前の富士登山の荒れようが、まさにそういう危険性を示唆しています。富士は入山料や装備チェックの厳重化で対応できつつありますが、他の山域にこの問題は今後広がっていく可能性があります。
そんな事態にならないためには、どうすればいいのでしょうか。
それには、情報通信テクノロジーしかないとわたしは考えています。テクノロジーを活用し、遭難対策を積極的に進めていく方向です。
近年のこの分野のテクノロジーの進化は著しく、さまざまな分野での応用が進んでいます。たとえば日々の暮らしに直結することで言えば、認知に問題がある高齢者の見守りも、「家族の支え」や「近所の人たちの見守り」だけでなく、住宅のエアコンや電気ポットの操作をインターネット経由でクラウドに送信することによって安否を確認できるようになっています。さらに今後はApple Watchのようなウェアラブルデバイスによって、心拍など身体の状態を常時計測し、健康状態を把握するという方向に進もうとしています。
山岳遭難でも、こうしたテクノロジーの恩恵を受けられる時期に来ているのではないでしょうか。Apple Watchのようなスマートウォッチには転倒検出機能があり、転んだり滑落したりといった衝撃が加われば自動的に緊急SOSを発信してくれます。スマートフォンで人工衛星と直接通信し、携帯の電波の届かないところでもSMSなどを送る機能は今年になって実用化されはじめました。スマホの衛星通信は今後、緊急時だけでなく常時可能な方向に進んでいきそうです。
★山のあかし
https://yamanoakashi2025.com/
デジタル庁は昨年から、「山のあかし」というプロジェクトをスタートさせています。現時点では北アルプスや八ヶ岳などの一部の山小屋でマイナカードでチェックインできるだけの簡素なものですが、いずれは登山届的なものをマイナカードで完了させたり、登山者の技量を可視化させていくという大きな目標を秘めているプロジェクトです。