前回にひきつづき、今回のメルマガは、僕の新作英語論文「隠れた性質と隠れた病気についてのルネサンス論争とゼンネルト」の試訳(中編)をお送りします。
2 フェルネル以後のルネサンス論争
フェルネル独自の病理学とそれに付随する治療法と薬学を受けて、幾人かの医学者が隠れた病気と隠れた性質についての論争に参入する。フェルネルにたいする最初期の反応のひとつは、ピサのジョヴァンニ・アルジェンテリオ(Giovanni Argenterio, 1513-1572)から寄せられた。彼の『病気の種類について』は、『医学著作集』(フィレンツェ、1550年)に収録されている。
そのなかでアルジェンテリオは、隠れた性質によってつくられる「実体全体の病気」が存在することを認めている。フェルネルとならんで、彼は隠れた病気や実体全体の病気についてのルネサンス論争のカギをにぎる役割をはたした。
有名な反パラケルスス主義者であるハイデルベルク大学のトマス・エラストゥス(Thomas Erastus, 1524-1583)も、『医薬の隠れた諸力について』(バーゼル、1574年)という影響力ある著作を出版している。一書構成のこの著作は、第1書が66章に分かれており、つづいて第2部が下剤についての3つの主要な問題を扱う。
「力」という用語のために、エラストゥスは「性質」や「特質」という用語を並置して使っている。彼は隠れた性質の星辰的な起源を退けつつ、自然の事物のすべての特性は天界ではなく、形相に由来するのだと主張する。特記すべきは、彼の批判がフェルネルのような自然哲学者や医学者ではなく、「占星術師たち」に向けられている点だろう。
つぎにエラストゥスは、隠れた性質を二区分する:自然物の形相に依存するものと、混合つまり元素的な性質の混じりあいに従うものだ。前者についての考察が実体全体の概念へと彼を導き、ガレノスの名前のもとに彼はそれを受けいれている。
同様にブレーシャのヨハネス・フランシスクス・ウルムス(Johannes Franciscus Ulmus, ?-ca. 1612)は、『医学における隠れた特質について』(ブレーシャ、1597年)を出版する。この小著は四書構成であり、それぞれは食物、医薬、毒物、下剤を扱っている。
食物や医薬のような良い効用のあるものと毒物のような害悪なもののあいだに明確な境界線が引かれていないが、それはガレノスの薬学理論にしたがっているのであり、驚くべきことではない。しかしルネサンス医学の新しい潮流も見出せる。フェルネルに大きく影響されつつ、ウルムスはガレノスの権威のもとに自然物の隠れた特質を議論している。
面白いことに、彼は音楽の「隠れた力」という用語で音楽療法にも言及する。ここで彼は、むしろフェルネルよりもフィレンツェのプラントン主義者マルシリオ・フィチーノ(Marsilio Ficino, 1433-1499)の名前に言及しつつ、隠れた性質の天界起源を否定するのだ。
16世紀末になると自然哲学者や医学者のあいだで、フェルネルの名前に言及しつつ、隠れた病気やペストの起源についての彼の考えにたいする同意や不同意を表明する慣行が一般的となる。
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