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『グーグル日本法人元社長 辻野晃一郎のアタマの中』
~時代の本質を知る力を身につけよう~【Vol.105】
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【今週号の目次】
1. 気になったニュースから
◆ トゥキディデスの罠?
2. 今週のメインコラム
◆ 『海賊とよばれた男』に学ぶ日本人の気概
3. 読者の質問に答えます!
4. スタッフ“イギー”のつぶやき
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1. 気になったニュースから
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◆ トゥキディデスの罠?
日経新聞を購読されている方などは「トゥキディデスの罠」という言葉を目にしたことがあるかもしれません。米FRBやモルガン・スタンレーなどに勤務し、現在はイェール大学シニアフェローのスティーブン・ローチ氏が、2018年11月、シンガポールでの投資家向け会合でこの言葉を引用しました。それ以来、国際政治の場などでよく使われるようになったようです。同氏は日経新聞の「グローバルオピニオン」等にも時折寄稿しています。
今日は、何故かこの言葉が久し振りに頭に浮かんだので、筆の赴くままに少し思うところを書いてみたいと思います。
「トゥキディデスの罠(Thucydides Trap)」とは、古代アテネの歴史家トゥキュディデスにちなんで、米国の政治学者グレアム・アリソンが提唱した言葉です。従来の覇権国家と台頭する新興国家が、最終的に戦争が避けられない状態にまで衝突する現象のことを指します。
古代ギリシャ時代、海上交易で台頭する新興国アテネと、陸上の軍事覇権国スパルタとの間で対立が生じ、長年にわたるペロポネソス戦争が勃発しました。この戦争を不可避なものとした原因は、アテネの台頭とそれに対するスパルタの恐怖心だったとされています。
その故事になぞらえ、急速に台頭する新興の大国が、既存の覇権国と競合することで摩擦が高まり、お互いに望まない形で軍事衝突に至ることを表現する言葉として使われるようになりました。特に、冒頭で触れた通り、トランプ氏が一期目の大統領の時期に中国に対する貿易戦争を仕掛けて以降は、米中関係を語る文脈でしばしば引用されるようになりましたが、それ以前にも、オバマ元大統領や習近平主席が「お互いに一線を超えないようにしなければならない」という意味合いで引用しています。
最近、「トランプ2.0革命」で激化する米中の関税の応酬や双方の発言を聞いていてあらためて思うことは、トランプ氏と習近平氏は、まさにお互いを鏡に映したように反転した関係にある、ということです。
すなわち、アメリカ・ファーストを唱えるトランプ氏の考え方は、「世界の戦略的秩序は従来通り米国中心の状態を維持したい、しかしそのためには従来の経済秩序を変えねばならない」というものです。一方の習近平氏の考え方は真逆で、「世界の戦略的秩序を中国中心のものに変えたい、そしてそのためには従来の自由で開かれた経済秩序はこのまま維持したい」というものです。
そして二人のこの真逆の考え方の根底には、一致した共通認識があります。それは、--
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