池田清彦のやせ我慢日記
/ 2025年2月28日発行 /Vol.282
INDEX
【1】やせ我慢日記~国力をつけて南海トラフ地震に備えよう~
【2】生物学もの知り帖~シジュウカラのコトバ~
【3】Q&A
【4】お知らせ
『国力をつけて南海トラフ地震に備えよう』
2036年前後に南海トラフ地震が起きたとして、日本が自力で立ち上がれるかどうかは、その時の日本の国力がどのくらいあるかにかかっている。国力というのは曖昧な言葉だけれど、その時の経済力、生産力、国民の知力と創造力、文化発信力、軍事力、資源力などの総体である。大震災で、様々なインフラが失われ、食物や電気その他の生活必需品が失われた時に、速やかにこれらを修復または作り出すには高い国力が必要だ。
国力、特に高い生産力があれば、ある程度自力で、必要なものを生産することができる。先の述べたように国力にはいろいろな指標があるが、生産力に関係するもので重要なのは、GDP、一人当たりのGDP、平均賃金、自国通貨の価値などである。30年前に比べ、国際水準から見て、これらはすべて大幅に下がっているので、日本の国力は衰退している。景気が悪くて、国民の消費力が低水準だと、生産力も呼応して下がり、いざとなった時に、簡単には増産することができなくなる。日本の国力を30年前と同水準にまで引き上げることができれば、南海トラフ地震を、乗り切れる可能性は多少は高くなる。
というわけで、まずこれらの指標がどのくらい悪くなったかを見てみよう。まずGDPだが、アメリカに次いで世界2位になったのが1968年、以降42年間2位をキープして2010年に中国に抜かれ、3位に転落、2024年にはドイツに抜かれ4位に、IMF(国際通貨基金)の予想では2025年にはインドに抜かれて5位になるという。
実際のGDPはどのくらいかというと、例えば1990年の日本の名目GDPは31859億ドル、アメリカは59631億ドル、中国は3966億ドルで、2024年のそれは日本40701億ドル、アメリカ291678億ドル、中国182733億ドルであるから、この34年間で、アメリカは4.9倍、中国はなんと46倍増加したのに対して日本は1.3倍弱しか増えていない。日本が世界の経済発展からどれだけ取り残されているかがわかる。
GDPは国単位なので、人口が大きい国は大きくなるのは当然で、実際の国民の生活にとって重要な指標は一人当たりの名目GDPである。1990年、日本は、世界の第8位であった。1995年には第6位と、1990年代の終わり頃まで、日本の一人当たりの名目GDPは世界のトップクラスを維持していた。具体的には1990年のアメリカの一人当たりの名目GDPは23848ドル、日本は25809ドル、1995年は円高もあってアメリカのそれは28671ドルで日本は44210ドルでアメリカを遥かに凌駕していた。それが2021年にはアメリカは71257ドル、日本は40161ドルと日本の一人当たりの名目GDPは全く増えていないかむしろ減っている。最近では韓国や台湾にも抜かれる始末で、2024年のそれは、日本32859ドル、台湾33234ドル、韓国36132ドルで、世界の順位は日本39位、台湾37位、韓国33位で、東アジアの中でも、日本の凋落の速度は凄まじい。
平均賃金について見るとOECD(経済協力開発機構、加盟国38か国)の平均は2022年度53416ドルで、日本のそれは41509ドル、加盟国中25位である。1991年の平均賃金を100とすると、OECDの平均は2022年133で、日本のそれは103と、世界の平均賃金が30年余りで33%増えたのに日本のそれは3%しか増えていない。日本の物価はデフレとはいえ30年余りで11%上昇したので、賃金の上昇はデフレでも物価に追いつかないのである。庶民の暮らしは苦しくなるばかりである。
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