池田清彦のやせ我慢日記
/ 2025年2月14日発行 /Vol.281
INDEX
【1】やせ我慢日記~「老化は1個の病気」説再考~
【2】生物学もの知り帖~miRNAを調べてすい臓がんを早期発見する~
【3】Q&A
【4】お知らせ
『「老化は1個の病気」説再考』
歳をとってくるとあちこちにガタが来る。10年ほど前に塀を乗り越えようとして跨いだ時に膝を痛めたらしく、数日後に無闇に痛くなって、仕方がなく整形外科に行ったら、レントゲンを撮られて、変形性膝関節症だと診断され、電気刺激療法をするので毎日通院しろと言われた。レントゲン写真を見せてもらったが、素人目には大したことなさそうだったので、それきり医者には行かないで、毎日、膝の間に直径15cmくらいのゴムボールを挟んで、座っている間中動かしていたら、数ヶ月で治ってしまった。
大学を定年になる少し前から足の裏に違和感があり、はだしで床を歩くと気持ちが悪くて仕方がなかった。ルームサンダル(室内用草履)を履くと気持ちの悪さが多少和らぐので、それ以降は、夏ははだしで、冬は五本指靴下を履いてルームサンダルを使用して暮らしている。足の裏の感覚はあり、つねれば痛いし、くすぐればくすぐったいので糖尿病ではなさそうだが、原因はよくわからない。血液検査をしてもHDLコレステロールが正常値よりはるかに高いほか(上限の2倍近くある)は、さしたる異常はない。でも足の裏はいつでも気持ちが悪いんだよね。
3年ほど前から、朝、目が覚めると、右脚の脛の外側が痛い。起きてしばらく動いているうちに治ってくるのだが、よく観察していると腰から来る神経痛のようで、おそらく脊柱管狭窄症だろうと自分で診断したが、念のためこれもレントゲンを撮ってもらおうと、整形外科に行った(前の整形外科はちょっと信用できかねたので別の医院に行った)。案の定、脊柱管狭窄症だと言われたが、これもレントゲン写真を見せてもらって、さほど重症ではなさそうなので、2回ほどリハビリに行ったきりで、後は騙し騙し様子を見ることにした。幸い間欠性跛行はないので、多少痛いけれども、歩くのにそれほど支障はない。
最近、右の人差指がばね指になって、曲げたり伸ばしたりするとバキバキ言って気分が悪い。特に、朝起きて最初に曲げる時が苦労する。しばらく使っているうちに動きが多少滑らかになってくるが、発症前には戻りそうにない。こう書きつけてくると、私の症状はほとんど関節関係の不具合だが、他の個所もそれなりに具合が悪いのである。ただ医者に診てもらうほどのこともないので、緑内障で4ヶ月に1回、眼医者に行く以外は病院に行くことはない。
内田樹は「死神と競争して勝った人はいない」という名言を吐いたが、多細胞生物が、齢を重ねて徐々に元気がなくなり、衰弱して死ぬのは不可避の自然現象に違いない。多くの人はそう信じているし私もそう思っている。しかし、以前のメルマガでも書いたが、『LIFESPAN(ライフスパン)老いなき世界』(東洋経済新報社)を著したデビット・A・シンクレアのように、老化は1個の病気だと主張する人もいる。今回はこの主張について再考してみたい。
まず、老化は病気のはずがないというエビデンスを2つ挙げる。老化が1個の病気であるならば、その症状は個体によって様々であったとしても、老化速度は連続的に変異するはずだ。早老症という病気がある。例えばハッチンソン・ギルフォード症候群という進行の速い早老症は、通常の人よりはるかに早く老けて動脈硬化症が進行し、20歳を待たずに心筋梗塞などの老人病で命を落とす。老化がすべて同じ1個の病気ならば、早老症という特異群があるのはおかしいのではないか。
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