■性弱説経営とは
顧客が教えてくれたニーズが、すべて新商品に採用できるとは限ら
ない。たとえば、顧客の要望を聞いてタブレットPCの新商品を開
発したとする。
顧客の要望は「多少高くても良いから、小さいタブレットPCが欲
しい」というものだったとする。これに対応するために、ひと回り
小さい新商品を従来品より2000円高くして売り出した。
ところが、この商品はまったく売れなかった。理由は、顧客ニーズ
の罠にはまったからだ。顧客は、商品に対して、自分が感じたこと
を話してくれる。そこから様々な要望、ニーズがわかる。
だが、顧客が話したことがすべて採用できるニーズとは限らない。
「顧客の要望通りに新商品を作れば売れる」という性善説的な考え
をしていると、この罠に引っかかる。
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この場合、顧客のニーズは2つに分けて考えることができる。まず
「小さいサイズが欲しい」であり、もう一つは「価格が多少高くて
も良い」だ。問題は、これらの要望の根拠だ。
「小さいサイズが欲しい」というニーズについて詳しく聞いていく
と「色々持ち物が増えたので、小さいタブレットPCが欲しい」と
なる。ここまで掘り下げていけば、根拠がわかり、納得もできる。
次に2つ目の「価格は多少高くてもいい」についても詳しく聞くと
「本当は安い方がいいが、サイズが小さくなるなら価格は妥協しな
いといけないと思った」ということがわかった。
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一見すると、どちらも「なるほど」と思えるが、価格については文
末に「思った」とあるのがポイントだ。サイズについては「持ち物
が増えた」という事実に基づいた要望だ。
ところが、価格に関する話には、具体的根拠がなく、意見に過ぎな
い。しかも内心「安いほうがいい」と思っている。本心と真逆のこ
とを話しているわけだ。そもそもニーズとして正しくないのだ。
そんな意見をニーズとして商品に反映してしまったから失敗したの
だ。コスパやタイパというように、今は効率性が求められる。仮に
小さくても、価格が上がればコスパがあわないとされるのだ。
★
このように、顧客の声を丁寧に分解・分析すればわかるのに、罠に
かかってしまうのは「顧客の要望通りに新商品を作れば売れる」と
いう前提に立っているからだ。
顧客の声は重要だが、言われた通りに作りさえすれば売れるわけで
はない。顧客ニーズという言葉を錦の御旗にして、要望通り商品を
作ったところ売れなかったという失敗談は星の数ほどあるのだ。
ここで「顧客の要望通りに作っても売れないかもしれない」という
前提を持っていれば「価格が高くてもいい」という顧客の思いを新
商品開発に反映させて失敗するケースはなくなるはずだ。
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2つの違いは、前者が「性善説」に立っており、後者が「性弱説」
に立っている点だ。ビジネスの場において、当事者をどんな性質を
持つ人として捉えるかの違いだ。
「人は皆、本来善人であり、正しく聞けば正しく答えてくれる」
「やるべきことをきちんとできる」「物事の道理や常識をわかって
いる・実践できる」と捉えることh「性善説」だ。
一方「人は本来弱い生き物なので、難しいことや新しいことを積極
的には取り入れたがらない。目先の簡単な方法を選んでしまいがち
だ」という捉え方は「性弱説」だ。
先程の例では「顧客は自分の困りごとや感情を正確に把握して言葉
にすることは難しいかもしれない」「思いつきを何となく話してい
るだけかもしれない」という視点に立つものだ。
どちらの前提に立つかで、会社も個人も成果が大きく変わってく
る。大切なことは事実と根拠だ。「顧客の話には事実に基づかない
意見や感想も含まれている」と性弱説に立つことが大事なのだ。
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