池田清彦のやせ我慢日記
/ 2025年1月10日発行 /Vol.279
INDEX
【1】やせ我慢日記~病気にどう対処するかは人それぞれ~
【2】生物学もの知り帖~ハイギョは人の30倍のゲノムサイズを持つ~
【3】Q&A
【4】お知らせ
『病気にどう対処するかは人それぞれ』
前々回(第277回)に「友が病気になったり亡くなったりして思うこと」というエッセイを書いたが、2024年になってからも敬愛する養老孟司と内田樹ががんに罹ってしまった。養老さんは医師の免許を持っているのに医者嫌いで、健康診断も嫌いで少々のことでは病院に行かないが、2020年の初夏に心筋梗塞を患って東大病院にしばらく入院していた。どこも痛いところはないのだけれども、体重が激減してやる気が全く出ない。それで、自分から病院で検査をしてもらおうと思ったようだ。
私も健康診断はまったく受けないけれど、自分でこれは変だと思った時は病院に行く。自分の体を毎日観察していると、この痛みやこのだるさはいつもと違うということがわかる。勘が働くのだ。養老さんは昔の教え子の中川恵一医師に連絡して東大病院で検査を受け、心筋梗塞で即入院となった。あと少し遅れていたら、冠動脈が詰まって危なかったようだ。中川さんには「運がよかったですね」と言われたという。この辺りの事情は、養老さんと中川さんの共著『養老先生、病院に行く』(エクスナレッジ)に詳しく書いてある。
養老さんが医者嫌いだという気持ちはよくわかる。この本の中で養老さんは次のように述べている「なぜ病院に行くのに決心がいるかと言うと、現代の医療システムに巻き込まれたくないからです。このシステムに巻き込まれたら最後、タバコをやめなさいとか、甘いものは控えなさいとか、自分の行動が制限されてしまいます」。「今、病院に行こうとしたら、医療というシステムに参加せざるを得ません。いわば今まで野良猫のように生きていた自分が、家猫に変化させられるようなものです」。
エイズで死んだフランスの哲学者ミシェル・フーコーは生権力という概念を提唱したことで知られる。近代以前の権力は、権力の意志に歯向かう者は処罰するというものであったが、近代の権力は、そういった直接的・暴力的な統治ではなく、人々の生に積極的に介入して、人々があたかも自分の意志によって権力の望む方向を選択するように導く装置になった、というものである。
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