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池田清彦のやせ我慢日記 vol.273 -家庭菜園にやってくる害虫や害獣との攻防戦-

池田清彦のやせ我慢日記
池田清彦のやせ我慢日記 / 2024年10月11日発行 /Vol.273 INDEX 【1】やせ我慢日記~家庭菜園にやってくる害虫や害獣との攻防戦~ 【2】生物学もの知り帖~蚊はヒトから発せられる熱赤外線を感知する~ 【3】Q&A 【4】お知らせ 『家庭菜園にやってくる害虫や害獣との攻防戦』  今回はインパール作戦の続きを書くと予告したが、毎回シリアスな話が続くのは体に悪いので、今回は家庭菜園にやってくる害虫や害獣との攻防戦の話でもしようと思う。無農薬で家庭菜園を作ると害虫から逃れることはほぼ不可能である。普段はあまり見かけない害虫が、どこからともなくやってくるから不思議だ。数年前までキュウリを作っていたが、キュウリができる頃になると、ウリハムシが大量に発生して駆除しきれなくなったので、キュウリ作りはやめてしまった。キュウリはスーパーで1本70円くらいなので、手間暇かけて作るより買った方が安い。最初の年はウリハムシがほとんど来なかったので、1本の木に100個くらい成り、ウハウハしていたのだが、次の年からは毎年ウリハムシの大軍団にキュウリの葉が食われ放題になって、レースのようになってしまった。虫は食草をかぎつける超能力を持っているとしか思えない。スーパーの店頭に並んでいる見事なキュウリを見ると、どんな農薬をかけたのだろうかと思う。  それで、最近は比較的害虫が付かないトマトやパプリカやピーマンやトウガラシを作っている。ここ数年、晩夏になるとトマトの葉にはクロメンガタスズメの幼虫が付いたが、今年は見かけなかった。クロメンガタスズメは成虫の背面に髑髏の模様があるなかなか素敵なスズメガで、トマトの収穫がほぼ終わった頃にやってくるので、私はむしろ歓迎していたのだけれどもね。ちょっと残念な気がする。  例年ミニトマトが青いうちに穴を空けて、中の実を食べているオオタバコガの幼虫も、今年はあまりいなかった。その代わり、パプリカの実に入ることが多くなった。自宅で作っているのは「鈴なりリンリン」というミニパプリカと「ガブリエル」という12cmくらいに育つ大きなパプリカである。どちらも、実がこれ以上大きくならなくなって数週間経ってから赤くなり、食べ頃になる。青い実のうちはピーマンのようで、食べるには何の問題もないが、完熟して赤くなると甘味が増すので、我慢して待っている。しかし、この間にオオタバコガの幼虫に侵入されてしまうことが多く、待てば海路の日和あり、というわけにもいかないのだ。  よく見ると小さな穴が一つ空いている。それ以外は全く正常に見えるのだが、これをナイフで切ると、中に丸々と太った幼虫がいて種とワタを食い尽くして、糞だらけになっている。ナイフで切った時に、幼虫の体も真っ二つに切れてしまうこともある。穴が二つ空いている場合は、ナイフで切っても中はもぬけの殻で糞だけが入っている。一つの穴は侵入孔でもう一つは脱出孔なのだ。中を食いつくして他の実に移動したのである。実の上に止まって、外から食べていると捕食者に見つかる確率が高くなるが、食べ物の中に隠れていれば捕食者に見つかる確率は低くなる。とても賢い生存戦略だ。  ところで、「ガブリエル」は日本デルモンテアグリが開発したパプリカの品種ということで、生でそのまま「ガブッ」と食べて味の違いが分かるところから、そう名付けたということだが、「ガブリエル」は聖書では「神の言葉を伝える天使」で、最後の審判の時にラッパを吹いて死者を甦らせる役を担うとされている。パプリカの品種名に使うのは余り相応しくないと思うのだけれどもね。  一番害虫にやられないのは、トウガラシ、ラッキョウ、それと野菜ではないがマリーゴールドである。トウガラシは茎にホオズキカメムシが付くくらいで、他に大した害虫はいない。ホオズキカメムシはメスが卵塊を産んで、そこから孵化した幼生が集団で暮らすので、時々、トウガラシやパプリカの茎に20匹位まとまって付いていることがある。虫の嫌いな人はぎょっとする光景だと思うが、私は全部素手で獲って、踏み殺してしまうので、何ということもない。イモムシも毒のないケムシも全部素手で獲るのが一番楽である。新芽にべっとりと付いているアリマキも素手で擦れば簡単に退治できる。殺虫剤など使う必要はない。

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