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池田清彦のやせ我慢日記 vol.272 -日本の近現代における歴史的分岐点について 9-

池田清彦のやせ我慢日記
池田清彦のやせ我慢日記 / 2024年9月27日発行 /Vol.272 INDEX 【1】やせ我慢日記~日本の近現代における歴史的分岐点について 9~ 【2】生物学もの知り帖~脳食いアメーバについて~ 【3】Q&A 【4】お知らせ 『日本の近現代における歴史的分岐点について 9』  前回はインパール作戦という兵站(へいたん:後方支援)を無視した無謀な作戦がどういった経緯で決まったのかについて述べた。話を整理するために簡単におさらいしよう。日本軍は太平洋戦争の初期は連戦連勝で、東南アジア方面の戦いでも怒涛の進撃を見せ、ビルマは1942年5月までに陥落し、日本軍の支配下に入った。訓練の足りないイギリス軍は弱く、日本軍の敵ではなかったのである。  あまりにも弱かったので、イギリス軍を見くびった南方軍は1942年の8月に在印イギリス軍の拠点であるインパールを制圧する作戦を大本営に上申し、大本営も2個師団で作戦準備をせよとの指令を出した。予想されるイギリス軍の兵力は10個師団だったのだから、イギリス軍は余程弱いと思われていたのだろう。しかし前線(第15軍)の指揮官はさすがのこの作戦は無謀と思ったのだろう。司令官の飯田祥二朗をはじめ、師団長の牟田口廉也や櫻井省三などもこぞって反対し、延期になった。  しかし、1943年の2月にイギリス軍のオード・ウインゲートが北ビルマに侵入して陣地を築き、空中から補給物質を落としてもらって戦うという奇抜な戦い方を始めたので、これに驚いた牟田口は、連合軍の反撃が本格化する前に、先制攻撃を仕掛けてインパールを攻略するべきという考えを抱くようになり、事あるごとにこの考えを力説して回った。太平洋方面の戦局が芳しくなかったので、大陸方面で連合軍に一矢を報いたいと思っていた東條英機もこの構想に興味を示し、1943年3月に新たにビルマ方面軍が結成され、司令官に河辺省三が着任し、牟田口はその傘下の第15軍司令官に昇格した。  これが悲劇の始まりであった。河辺は盧溝橋事件の頃から牟田口の上官で、牟田口を個人的に可愛がり、牟田口の方針を合理的判断ではなく、個人的な情実で支持するようになった。牟田口は兵站を軽視してインパールを攻撃する作戦を立てたが、第15軍参謀長の小畑信良に馬鹿にされて腹を立て、小畑を解任するように河辺に掛け合って、小畑は就任後1カ月半で解任されてしまった。小畑は補給兵站の権威で、合理的に考えてとても勝算がないことが分かっていたのである。  南方軍総参謀副長の稲田正純も牟田口流の電撃作戦には反対で、ビルマ方面軍参謀長の中永太郎と共に、兵站の困難さを理由に、インパール北方のコヒマへの兵力投入に限定して、インパール攻撃は中止、防衛線構築に全力を尽くすべきという案を提示していた。しかし、前線の状況に疎い大本営や東條は、折から日本を訪ねてきたインド独立運動の活動家であるチャンドラ・ボースの口車に丸め込まれたこともあって、インドに侵攻してインド国民軍と共にイギリスと戦えば、イギリスを降伏させられるかもしれないという淡い希望に魅せられて、徐々にインパール作戦の遂行に傾くようになった。1943年の10月になり、インパール作戦に反対していた稲田正純が突如、南方軍総参謀副長を解任された。牟田口の上司であるビルマ方面軍司令官の河辺はほぼ牟田口の言いなりであり、南方軍総司令官の寺内寿一は陸軍の最長老の元帥であり、細かい作戦には口出しをしなかったため、牟田口の暴走を止める者は誰もいなくなってしまった。  1944年1月4日、稲田の後任の綾部橘樹が大本営を訪れ、インパール作戦を説明した。ただ一人頑強に反対したのは参謀本部第一部長の真田穣一郎だったが、参謀総長の杉山元の「寺内元帥のたっての希望であり、やらせてやってほしい」という情実がらみの説得に負けて、仕方なく反対を引っ込めた。後年、真田は「私の終生の恨事であった。なぜ初心を貫徹しなかったのか」と悔やんだと伝えられる。ちなみに参謀総長の杉山元は、敗戦後の1945年9月12日に敗戦の責任を取って自決した。

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