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「シェキウス、シンプリキオス、原子論者アナクサゴラス:アリストテレス注解とルネサンス粒子論」(後編)

BHのココロ
  • 2024/09/02
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今回は、前回に引きつづき、2022年の春にスウェーデン(しかしオンライン)で開催された国際会議から生まれ、今秋に出版される国際論集『粉々になる質料形相論』(Hylemorphism into Pieces)(スプリンガー出版)に寄稿した新作英語論文の邦訳(後編)をお送りします。 3. シェキウス  つぎにルネサンス期ヨーロッパに眼を移してみよう。アリストテレス『自然学』にたいするシンプリキオスの注解は、中世ヨーロッパではほとんど知られていなかった。 15世紀末期や16世紀初頭においてさえ、マルシリオ・フィチーノ(Marsilio Ficino, 1433-1499)やピコ・デッラ・ミランドーラ(Giovanni Pico della Mirandola, 1463-1494)、コルネリウス・アグリッパ(Cornelius Agrippa, 1486-1535)、ポリドール・ヴェルジル(Polydore Vergil, c. 1470-1555)などの博学な人文主義者たちは、アナクサゴラスについて非常に限られた知識しかもっていなかった。 そこでは、シンプリキオスの『自然学』注解の使用は非常に限定されている。私の知るところでは、フェラーラの医学的な人文主義者ニッコロ・レオニチェノ(Nicolo Leoniceno, 1428-1524)が自身の医学的な著作群で、このテクストを利用した最初の人物となる。 彼の発生学的な著作『形成力について』(ヴェネツィア、1506年)では、自身の手元にあったギリシア語手稿から直接にラテン語訳しながら、長尺の引用をいくつかおこなっている。しかしこれらの引用は、アナクサゴラスや宇宙的な知性や同質部分体についての彼の考えを語るものではない。  つづいてシンプリキオスの『自然学』注解は、ギリシア語原典がヴェネツィアのアルド書店から1526年に出版され、さらにブレシアの人文主義者ルチオ・フィラルテオ(Lucillo Filalteo, c. 1510-1570)によってラテン語訳される。 パドヴァ大学のツィマラ(Marcantonio Zimara, 1460-1532)やレオニコ・トメオ(Nicolo Leonico Tomeo, 1456-1531)に学んだ後、この人物はパヴィア大学で哲学と医学を教えた(1546-1565)。 同僚カルダーノ(Girolamo Cardano, 1501-1576)と親友であり、コンタリーニ(Gasparo Contarini, 1483-1542)やベンボ(Pietro Bembo, 1470-1547)といった有名な知識人たちと文通している。彼によるシンプリキオスの『自然学』注解のラテン語訳は、ヴェネツィア(1543年と1546年)とパリ(1544年)で出版された。  もうひとつの事例として、1538年からヴァチカン図書館の司書だったステウコ(Agostino Steuco, 1497/8-1548)も、シンプリキオスの『自然学』注解を利用したもっとも早期のルネサンスの知識人となる。 影響力ある『永遠哲学について』(リヨン、1540年)で、中世におけるキリスト教会の断罪にも拘らず、彼は世界霊魂についてのプラトン主義的な学説と聖霊についてのキリスト教学説の同一視し、その擁護を展開する。 そのなかで彼は、宇宙的な知性についてのアナクサゴラスの教えに依拠しつつ、上述の印象的な断片(DK 59B12)をギリシア語で引用し、自身のラテン語訳を提供している。  シンプリキオスの著作に関連する出版物の増加にしたがって、チュービンゲン大学のシェキウス(Jacob Schegk, 1511-1587)も自身によるアリストテレス『自然学』の注解をバーゼルで1546年に出版する。 その印刷業者はヘルヴァーゲン(Johann Herwagen, 1497-1558)といい、偉大な出版業者ヨハネス・フローベン(Johann Froben (c. 1460-1527)の息子ヒエロニュムス(Hieronymus Froben (1501-1563)の友人かつ協力者だった。

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