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『グーグル日本法人元社長 辻野晃一郎のアタマの中』
~時代の本質を知る力を身につけよう~【Vol.72】
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【今週号の目次】
1. 気になったニュースから
◆ グーグル分割の動きについて
2. 今週のメインコラム
◆ 言論の自由の危機:テレグラムCEOがフランスで逮捕の意味
3. 読者の質問に答えます!
4. スタッフ“イギー”のつぶやき
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1. 気になったニュースから
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◆ グーグル分割の動きについて
8月9日に配信した第69号 で、グーグルの反トラスト法違反の件を取り上げましたが、その続報です。
米国時間8月5日、ワシントンDCの米連邦地方裁判所は、グーグルがオンライン検索サービスで違法に独占を維持してきたと認める判決を出しました。米ブルームバーグやニューヨーク・タイムズによると、その後、原告の司法省などは、同社の分割を含む是正案を計画しているそうです。グーグルは、判決を不服として控訴を予定していますが、今回はグーグルの分割ということについて考えてみたいと思います。
分割案については、やはり第69号の質問コーナーでの回答で、アマゾン分割を唱える連邦取引委員会委員長のリナ・カーンを紹介して予告しましたが、その通りの展開になってきました。なお、リナ・カーンに加えて、2021年末には、司法省の反トラスト局トップにグーグルを批判してきたことで「グーグルの天敵」とも呼ばれる弁護士のジョナサン・カンターが就任しており、8月5日の判決についても「画期的な判断だ」とコメントしています。
そもそも、グーグルを含めて、あらゆる企業には「起業」という起点があり、その段階での幾多のハードルを乗り越えた企業だけが成長を続けて勝ち組となっていきます。グーグルもいわゆるガレージ起業からスタートして、「検索エンジン」という画期的な武器を軸に、すさまじい自助努力の積み重ねで今日のポジションを築きました。 前々号の第70号 でスーザン・ウォジスキの逝去を伝えましたが、ラリー・ペイジとセルゲイ・ブリンが起業した時に、まさに自宅のガレージを貸したのがスーザンです。
自助努力で成長した企業に政治が介入するのは不公平ですし理不尽です。ですから、私は企業への政治介入は最低限であるべきと考えていますが、一方で、GAFAMなどの多国籍巨大テック企業は今や国をはるかに超える影響力を持つに至った存在ともいえます。独占的な立場を利用した身勝手なことも平気でやるようになっていますから、ベンチャー育成含めた産業振興、消費者保護、逃税対策などの面からは、一定の政治介入はやむを得ないと言えるでしょう。
過去には、1969年にIBM、1984年にAT&T、1998年にはマイクロソフトが反トラスト法(独禁法)違反のターゲットとなり、AT&Tは実際に分割されました。IBMやマイクロソフトのケースは最終的には和解に至ったものの、長期にわたる裁判での疲弊や、ターゲットにされたことによる社会的影響で、両社の勢いは削がれ、その後のコンピューター産業やソフトウェア産業にそれなりのインパクトを与えたことは否めません。
報道によると、グーグルの分割については、スマートフォン用OSの「アンドロイド」やブラウザの「クローム」の事業売却などを柱に検討されているようですが、グーグルの特殊な生態系を考えると、他企業のように製品カテゴリや事業ドメインでグーグルを分割することはあまり現実的とは言えません。
一般的な企業では、製品カテゴリ単位、あるいは事業ドメイン単位で事業部を分け、それぞれの事業部ごとに独立採算制を敷いて事業を管理し、ざっくり言えば、すべての事業部の売上や利益を足し合わせると企業全体の売上や利益になる、という仕組みになっているかと思います。いわゆる事業部制、SBU(Strategic Business Unit)と呼ばれる仕組みです。
しかし、グーグルはそのような仕組みにはなっていません。単純化して言うと、グーグルは「広告で稼ぐ側のグループ」と、「広告以外のことをやるその他のグループ」、という大きく言えば2つのグループの組み合わせで生態系が構築されており、アンドロイド事業部とか、クローム事業部のような括りは存在しないのです。
世界中に張り巡らされた巨大なアドネットワークを基盤に、検索連動広告やコンテンツ連動広告で潤沢なキャッシュを稼ぎ出す巨大なエンジンがあり、その他のサービスはすべてそのエンジンにトラフィックを流し込む役割で連携している、というのがグーグルの生態系です。原則的に、広告以外で稼ぐ必要がないので、まるで公共サービスのような無料サービスもたくさんあります。
ですから、個々の製品やサービスを単体で切り出してもそこには収益モデルが存在しません。分割案にあるとされるアンドロイドはオープンソースですからそこには収益モデルが存在しません。ブラウザのクロームにも収益モデルが存在しません。収益モデル的には、これらはすべて広告事業と連携することによってはじめて意味を持つのです。ですから、これらを切り出すということは、--
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