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205回 無知な人間が世間をだます老人差別

和田秀樹の「テレビでもラジオでも言えないわたしの本音」
また、朝のワイドショーを見ていたら、横浜市で2月17日に起こった、車やバイクなど5台が巻き込まれたひき逃げ事件を報じていた。 逮捕された男性が78歳ということで、人も死んでいないのに、また高齢者差別報道かとあきれていたら、その男性は事故後に壊れた車で「散髪に行っていた」と話しているとのことだった。その男性は、横浜市金沢区の県道でバイク2台と車3台に次々、衝突して、そのまま逃走した疑いが持たれていると報じられているし、実名報道もされている。テレビでは顔も映されていた。さらに車をぶつけた覚えもないと供述しているとのことだった。 こういう事故や覚えていないという返答に対して、ふざけるなという感じのコメントが続く中、石原良純氏だけは自己鑑定人にコメントをもらうより、これは異常心理なので精神科医のコメントをもらうべきという発言をしていた。 私は、石原氏は、テレビタレントの中で最も知的でまともな人と評価している。 いろいろとテレビで取材を受けるが、取材記者と名乗りながら、大体、私の新聞や雑誌のコメントだけを読んでくるだけの人が多い中、私の著書をちゃんと1冊読んできた唯一と言っていい人である。 彼の推理は残念ながら的外れなものだったが、異常状態であることと精神科医の意見を聞けというのはまともな意見である。 近所の人に聞いてもまじめな人ということになっており、普段の運転が危ないものでなかったとしたら、その人をおかしな人とか、道徳観のない人と断罪するより、異常な精神状態にあったと考えるほうがはるかにまともである。 素人であるタレントコメンテーターを責める気にはならないが、せめてまともなプロを呼ぶセンスは欲しいし、スタッフが誰一人として、意識障害を知らない無知には唖然とした。 アメリカの老年医学の教科書には、真っ先に意識障害について触れられている。 これは、それだけ高齢者が意識障害を起こしやすいことがベースにある。臨床をしっかりやっている医者たちには当然のことだが、日本の老年医学の教科書にはほとんど触れられていない。 一般の医者が出くわす一番ありふれた意識障害は術後せん妄と言われるものだ。 麻酔から起きると寝ぼけたようになり、わけのわからないことを口にする。 声掛けには反応するが、後で聞いてみるとその時のことは全く覚えていない。 実は一般的なせん妄も同じような状態である。 高齢者の場合、入院しただけで、このせん妄や意識障害を起こすことは多いし、薬の副作用によるせん妄も多い。高齢者の場合は、血圧や血糖値、ナトリウム値を下げ過ぎた場合にも起こる。 しかし、運転中にせん妄を起こして、暴走とか、今回のような迷走を起こすと、高齢者すべてが危ないように言われて、原因の究明をしない。これでは再発防止は不可能だし、高齢者への差別がひどくなるばかりだ。 本当は知っているのに、大スポンサーである製薬会社への忖度であれば救いがないが、もし無知によるものなら早急に改めてほしい。

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  • 和田秀樹の「テレビでもラジオでも言えないわたしの本音」
  • 世の中のいろいろなことにたった一つしかないと考え、それを信じ込むことは、前頭葉の老化を進め、脳に悪い。 また、それが行き詰った時に鬱になるというメンタルヘルスにも問題を生じる。 ところが日本では、テレビでもラジオでも、○○はいい、××は悪いと正解を求め、一方向性のオンパレードである。 そこで、私は、世間の人の言わない、別の考え方を提示して、考えるヒントを少しでも増やし、脳の老化予防、メンタルヘルス、頭の柔軟性を少しでもましになるように、テレビやラジオで言えない暴論も含めて、私の考える正解、私の本音を提供し続けていきたいと思う。 質問、相談、書いてほしいテーマ等、随時受付。
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