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週刊Life is beautiful 2023年2月21日号: Software 2.0

週刊 Life is beautiful
今週のざっくばらん Teslaが強い理由 先週の「トヨタ自動車が負ける理由」を、逆に「なぜTeslaが強いのか」(もしくは、「なぜ私がTeslaの株を持ち続けているのか」)という観点から書き直すと、以下のようになります。 Teslaはソフトウェアのことが理解できる経営者が率いるソフトウェア企業である。 明確なビジョンを持つリーダーにより率いられている ゆえに、ソフトウェア・エンジニアたちにとってとても魅力的な会社である。 電気自動車に特化しているため、設計・製造・組織・サプライチェーンなどをそれに最適化できる 充電ネットワークの充実に、どこよりも先に投資した 電池のギガファクトリーに、どこよりも先に投資した ギガプレスという新しい製造手法に、どこよりも先に投資した 電池の温度コントロールと空調をヒートポンプを使って一体化した ディーラーを排除した、ネットからの直売 AIチップを自ら設計することにより、全車に搭載 市場にあるTesla車を使って集めたデータを自動運転ソフトの教育に活用している 自動運転ソフトを100%の粗利で販売している トヨタ自動車などの自動車メーカーは、自動運転に必要なチップをNVIDIAなどから調達することになります。チップの製造コストはそれほど高くありませんが、(NVIDIAが)チップを開発する際の莫大な研究開発費を回収し、さらに利益を上げるために、どうしても、非常に高価(数千ドル)になってしまうのです。そのため、自動車メーカーとしては、自動運転をハードウェア・オプションとして提供するしかなく、全車搭載は不可能です。そして、ハードウェア・オプションの粗利益率は、車両と同様のもの(高々20%)になります。 Teslaの場合、自動運転に必要なAIチップを自社で設計しているため、全車搭載が可能になります。全車搭載をしながらも20%超の粗利益率で販売できているのはこれが理由です。全車搭載しているため、自動運転はソフトウェア・オプションとして提供が可能になります。その粗利益率は100%で、一括販売だけでなく、サブスクリプション・モデルで提供することも可能です。 この一点だけを見ても、Teslaの優位性は明らかですが、問題はそれだけではありません。 自動運転の話を抜きにしても、電気自動車は、通常の自動車メーカーにとっては儲からない(粗利益率の低い)ビジネスであり(Teslaのような思い切った投資ができていないのが原因)、ディーラーにとってはメンテナンスで儲けることが出来ないビジネスであり、これも電気自動車への急激なシフトを難しくしています。 Software 2.0 ソフトウェアの作り方について、「数十年間悩んでいたこと」と「ここ数年感じて来たこと」があります。一見、関係のなさそうな二つが、あるきっかけで見事につながったので、その話を今日はしたいと思います。 「数十年間悩んでいたこと」とは、ソフトウェアが時間と共に複雑化したり属人化(作った人にしか理解できないソフトウェアになってしまうこと)し、しまいには、メインテナンスコストが高くなりすぎて進歩が止まってしまったり、バグを取ろうとすると別のバグが発生して「モグラ叩き状態」になってしまうことです。そんな時は、直感的には「ゼロから作り直した方が良い」と感じてしまいますが、それにはそれでデメリットやリスクがあり、一筋縄ではいかない問題です。 この問題はソフトウェア業界では良く知られた問題で、「構造化プログラミング」「オブジェクト指向」などのさまざまな手法が作られ、それなりに成果を上げてはいますが、「ソフトウェアの複雑さが増すとエンジニアの生産性が下がる」事実は今でも変わりません。 一方、「ここ数年感じて来たこと」とは、機械学習を使ったソフトウェアが、人間が頭を絞って作ったソフトウェアの性能を上回るケースが出て来ており、それが今後の傾向になるだろうという点です。典型的な例が「画像認識」です。画像認識に関しては、二十年以上前から機械学習の技術が使われていましたが、「耳が尖っている」「4つ足で立ってる」などの特徴の抽出を人間が手間をかけてアルゴリズムを設計し、コーディングしたソフトウェアで行い、その組み合わせの部分だけニューラルネットワークを使うという手法が使われていました。しかし、2011年ごろに、特徴の抽出の段階にも機械学習を適用することを可能にする手法、深層学習が発明され、一気に技術が進みました。 このイノベーションの素晴らしい点は、単に人間が手間をかけて(特徴を抽出する)ソフトウェアを書く必要がなくなっただけでなく、人間が作ったソフトウェアよりも優秀なソフトウェアが機械学習の手法により、作れるようになってしまった点です。 昨今のAIブームは、「画像認識でそれが可能であるならば、他の領域にも機械学習が応用できるはずだ」というエンジニアたちの直感により、音声認識、文字認識、翻訳、画像生成、文章生成などのさまざまな分野に機械学習が応用されるようになり、これまでにないスピードで人工知能の研究・開発が進んでいるのです。 後から考えてみれば、この二つは繋がって当然だったのですが、私の頭の中では、二つの独立した事象でしかありませんでした。 その二つが、実は密に繋がっており、後者が前者の答えなのかも知れないということの気づくきっかけを与えてくれたのは、Lex Fridman による Andrej Kapathy のインタビューです。 Lex Fridman のインタビューシリーズは、とても勉強になるので私も時間を見つけては聴くようにしていましたが、Andrej kapathy のインタビューには、数多くの宝が詰まっているので、ぜひとも聞いてみてください。 このインタビューで彼が語ったのが、「Software 2.0」という考え方です。彼はこの考えを、2017年という早い時期にブログの記事「Software2.0」で提唱しています。 機械学習の進歩がソフトウェアの開発手法に与えるインパクトを、的確に、かつ簡潔に捉えている文章なので、是非とも全文を読んでいただきたいと思いますが、簡単に要点をまとめると以下のようになります。 Software 1.0とは、ソフトウェア・エンジニアが作ったアルゴリズムをC++やPythonなどのプログラミング言語を使って実装したもの。 Software 2.0とは、ニューラルネットワークに大量の教育データを与え、深層学習を使って教育した莫大なパラメータの集まり。 Software 1.0においては、性能の向上は、ソフトウェア・エンジニアが頭を絞ることにより行われる。プログラムが複雑になればなるほど、開発コストは上昇する。 Software 2.0においては、性能の向上は、パラメータの数と教育データの量を増やすことにより行われる。 教育に必要なデータを入手可能な分野においては、Software 2.0が明らかに優れた手法である。 ゆえに、自動運転、翻訳、チャットなど、世の中のデータを処理することに関しては、Software 2.0がSoftare 1.0を駆逐することになる。 汎用人工知能(AGI)は、Software 2.0によってしか作ることが出来ない。 私のドローンの会社では、さまざまなところに機械学習を使っていますが、カメラから取得した画像からドローン自身の位置を特定するためのソフトウェアとしては、この業界のデファクト・スタンダードとも言えるOrbSLAM3というオープンソースのモジュールを使っています。しかし、これは研究者・エンジニアが頭を絞って作ったアルゴリズムに基づいて作られたSoftware1.0のソフトウェアであり、さらなる改良やバグの修正には、大きな手間と時間がかかります。 この部分をSoftware2.0のモジュールに置き換えることが出来れば、シミュレータで作った大量の画像を与えて制度を上げていくことも容易になるし、別のSofware2.0モジュールと組み合わせて、一気通貫で教育(最適化)することすら可能になります。 私の目に止まった記事 成田悠輔「高齢者は集団自決した方がいい」NYタイムズが発言報じて世界的大炎上「この上ないほど過激」 成田悠輔氏と堀江貴文氏とのYoutube対談「高齢者は老害化する前に集団切腹すればいい?成田氏の衝撃発言の真意とは」がきっかけとなり、成田悠輔氏の「高齢者は集団自決した方がいい」という発言が、ニューヨークタイムズの記事になってしまった件(A Yale Professor Suggested Mass Suicide for Old People in Japan. What Did He Mean?)を紹介する記事です。 成田悠輔氏とは、私も一度対談もしたことがありますが、とても賢い上に、話術が巧みという稀な存在です。ひろゆきさんとのYoutube番組を最初に見た時以、大ファンで、彼の過激な発言を楽しんでいた面もあります。

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