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週刊life-is-beautiful-2022年1月3日号:新年号、society-5.0a-政策編

週刊 Life is beautiful
今週のざっくばらん Society 5.0A:政策編 先週、Society 5.0(もしくは Society 5.0A)について、私なりの定義と作るべきアプリケーションやサービスについて書きましたが、それを踏まえた上で、日本政府として何をすべきかを書いてみたいと思います。 「具体的に何をすべきか」を書く前に、一つとても重要な点を指摘しておきます。それは、この手の政策が官僚や関係者にとっての格好の天下り先法人の設立に繋がったり、政府からの補助金そのものが企業にとっての主な収入源になってしまわないように制度設計をすることです。 原発や介護が良い例ですが、ひとたび国として大きな投資をすることが決まると、複数の特殊法人が作られ、さらにその下にそこからのお金の流れを受け取ることに特化したビジネスがたくさん誕生するのが日本の特徴です。「雇用」や「景気対策」という面では効果がありますが、所詮、国民が支払う税金(原発の場合は電気代)が原資なので、それが外貨を稼ぐことには繋がらないし、日本企業の国際競争力を強めることには繋がらないのです。 分かりやすい例が、日本のスーパーコンピュータ事業です。税金を原資とした政府のお金が、富士通などのスパコンメーカーに流れ込み、「京」や「富岳」などが開発されています。さらに、その税金で作ったスーパーコンピュータをどう使うかという研究にさらなる税金を投入され、天気予報やウィルスの拡散シミュレーションなどのアプリケーションの開発費用も、主に税金で賄われています。 これらの税金の投入により、日本のスパコン業界は研究者を抱えて研究開発を続けることが出来ているし、(スパコンランキングなどの)各種ベンチマークで良い成績を残すことが出来ていますが、それが日本のスパコンがビジネスので世界で戦える価値を生み出せているかと言えば、答えはNOです。 現時点で、計算能力が最も要求されているのは機械学習であり、世界の最先端を走っているのは、ハードウェアでは、Nvidia、Google、Tesla、ソフトウェアやサービスでは、Microsoft、Amazon、Google、Apple などの米国のメーカーであり、日本のスパコン投資で育てられた企業(富士通、NEC、日立など)は影も形もありません。 日本のスパコンメーカーのビジネスが「政府からの補助金をもらい続けること」に最適化されており、かつ、その関係者に与えられたミッションも「税金を投じて作ったスパコンを有効利用すること」でしかないため、10年ほど前から急速に増えた機械学習のニーズに答えることが全く出来ていないのです。 政府の投資が大きな価値を生み出した良い例は、Qualcommです。Qualcommは、CDMAという無線技術で大きく成功した会社ですが、この技術が最初に応用されたのは、軍事無線で、Qualcommの初期の成長には、米国の軍事予算が重要な役割を果たしています。しかし、Qualcommの本当の飛躍は、軍事予算を使って作り出した各種の特許を民間の携帯無線技術に応用し、スマートフォン1台あたり数ドルを特許料だけで稼ぐ巨大なビジネスを作り出すことに成功したのです。 こんな問題も踏まえた上で、来るべき社会変化に向けて、政府としてどこに投資すべきかを考えてみたいと思います。 先週書いた通り、Society 5.0において最も重要な役割を果たすのは人工知能とドローン・ロボットです。 人工知能に関しては、日本はかなり出遅れてしまいましたが、幸いなことに、この分野での基礎的な研究はかなりオープンな形で行われており、これからは基礎研究で勝負するよりも、最新の技術を活用したアプリケーションが良いと考えています。ドローン・ロボットに関しても、ハードウェアはコモディティ化される傾向があるので、ソフトウェアとサービスで勝負をする企業を育てるべきだと思います。 その意味では、人工知能やドローン・ロボットを活用して「世の中のどんな問題に対処するのか」が重要であり、日本が世界に先駆けて直面している「少子高齢化問題」に着目するのが良いと私は考えています。 急速な少子高齢化が日本にもたらしつつある問題は複数ありますが、大きく分ければ、「介護・医療」「地方インフラ」「労働人口の高齢化」の三つになります。 一つ目の介護・医療の分野では、人手不足とコストが大きな問題です。介護の仕事は過酷な肉体労働である割には給料が高くなく、ただでさえ敬遠されがちな仕事なのに、今後、労働者人口が減るにつれ、深刻な人材不足に陥ることが予想されます。また、高齢者の医療コストと介護コストは莫大であり、今後、税金を払ってくれる労働者が減り、高齢者が増え続けると、深刻な財政不足に陥ることが目に見えています。 特に介護は、まさに上に書いた理由で、介護保険目当てのビジネスが大量に生まれてしまっており、大量の税金(10兆円超)が介護の名目でそれらのビジネスに流れ込んでしまっています。これらのサービスは、介護認定を受けた高齢者から制度上許される最大限のお金を引き出すことに最適化されてしまっており、「必要なサービスを適切な値段で受ける」という経済原理が全く働かなくなってしまっています。 技術的側面だけ見れば、介護ロボットや介護者を補助するパワースーツの開発が必須であり、ここには日本企業に大きなチャンスがあると言えます。しかし、今の制度のままそこに税金を投入しても、正しい形のニーズが生まれるとは私には思えません。消費者が「よりコストパフォーマンスの良いサービスを選ぶ」仕組みを導入し、業者間の健全な競争を促し、より良いサービスと経費節減ののために、介護ロボットやパワースーツを導入するという正しいインセンティブ設計が必須です。 医療に関しても、これまでのような延命重視の医療を続けていては、医療費が膨らむばかりです。それよりも、(延命の代わりに)痛みや苦しみの緩和や尊厳死を重視した医療・終末ケアへシフトすべき段階に来ていると思います。その意味でも、平均寿命を医療の充実度の指標とすることを辞め、「何割の人が苦しまずに安らかに死ぬことが出来るか」などの新たな指標の導入が必要だと考えます。 高齢者の心のケアも重要なサービスの一つですが、ここに関しては、人工知能・ゲーム・VRの三つが大きな役割を果たせるポテンシャルを持っていると思います。ChatGPTを見ても分かる通り、人工知能との会話はすでに人間との会話と見分けがつかないレベルにまで達しており、それを活用したセラピーや痴呆症診断の実用化を真剣に考えても良い段階に達しています。 「太鼓の達人」のような「体を使うゲーム」を高齢者のアクティビティに活用する例は徐々に増えていますが、高齢者にできる限り健康でいてもらうためにゲームを活用することは非常に理にかなっており、ここは日本のゲームビジネスにとって大きなチャンスだと思います。賞金付きのコンテストを政府主催で行い、効果が高いと認められたゲームに関しては、税制面で優遇することにより、業界全体を育てる方向に持って行きます。

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