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『 田中優の未来レポート 』
第267号/2022.9.15
http://www.mag2.com/m/0001363131.html
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どうしたら木材から水分を抜けるのか(中)
木材乾燥の主流は機械乾燥であり、主に高温乾燥だ。しかし乾燥させるためには沸騰させないと水の多くは水蒸気にならない。水蒸気にならなければ、水分を抜くのは困難だ。しかし沸騰させるには高い温度が必要で、すると木材の質に問題が出る。木材は質が劣化して粘りがなくなり内部割れが起こる。それは色や見た目の問題だけでなく、リグニンが持っていた殺菌性能や防虫効果も失う。
ただ温度の問題なら、もっと低い温度で沸騰させることもできる。ここで考えたのは沸騰温度の低下だ。それは気圧が関係する。気圧の高い状態にすると沸騰時の温度が上がる。原発では冷却水の気圧を高くすることで、100℃でも沸騰させずに温度を上げていく。それが普段通りの気圧のところに戻せば、水蒸気の圧力はより強くなり、それだけタービンを効率良く回転させることができる。気圧を高くすることで、より高い温度になるまで沸騰しないようにしているのだ。
原発の場合、これにはもう一つ重要な機能がある。泡(これを「ボイド」という)ができると、その中を中性子が通る時にそれまでの水中と違って抵抗が少なくなり早く通り抜けるため(これを「高速中性子」という)、高速中性子は速度が速すぎて、次の原子に当たって核分裂しにくい。核分裂を促進させるためには、低速にした中性子でなければならないのだ。それを減速材というが、それが水なのだ。水があると核分裂が進み、泡(ボイド)があると核分裂せずに通り抜けてしまう。
そのため原子炉では炉内の泡(ボイド)を計測して、泡の状態を見て核分裂のスピードをコントロールしている。実は原発では、この泡のコントロールが非常に大きな役目を果たしているのだ。
これの逆で、気圧を下げたとすれば低い温度で沸騰するようになる。それによって低い温度で水を沸騰させることもできる。これは山に登ってお湯を沸かすと、100℃にならないのにぐつぐつ煮えるようになるのと同じだ。おかげでご飯が美味しく焚けなかったり、食材が生煮えになったりして困るのだが。これを逆に利用して低い温度でぐつぐつ煮え立たせて水蒸気を作り出すのはどうだろうか。この「気圧と沸騰の関係」を物理学の法則では「ボイルの法則」という。これを使って低い温度で沸騰させたらどうだろうか。確かに沸騰温度を下げて乾燥させられる。
しかしもともとの動機が「質の劣化」を抑えながら木材乾燥させることだ。実際にやったわけではないが、木材は低い温度であっても「沸騰させたこと」で劣化すると思う。その温度がリグニンが変質しない80℃以下であったとしても、沸騰させたことで細胞が劣化してしまうと思う。細胞としては不活化していても、相手は木材という生き物なのだ。不自然な乾燥のさせ方は何らかの不都合を生みそうに思う。リグニンの崩壊は多くはないが低い温度でも起こっていて、それと同様に「防虫効果」や「腐食防止効果」に違いが生まれるかもしれないし、内部の水を沸騰させることで、木材内部に「内部割れ」を起こすかもしれない。
私たちは100℃を超えるサウナに入ってもなんともないが、これがお湯だったに茹って死んでいる。これは水という密度の高い空間と、密度の低い空気中の温度伝達が全く異なるからだ。木材にしても同じ生物、生物として考ると、沸騰させること自体が不自然なことに思える。
圧力が一定で同じ気圧であったとしたら、気体の体積は「絶対温度」に比例する。「絶対温度」とは「物質を構成する原子・分子の熱による振動がすべて静止する温度を零度とする。水の原子・分子が静止する温度を273.16度と定義し、目盛間隔をセ氏温度と同じにとっているので、水のセ氏温度に273.15度を加えた値で表される」ものだ。
つまりセ氏温度で0℃以下になれば、すべて凍ってしまっていて動かないように感じるが、しかし氷になっていても水蒸気となって蒸発するし、原子・分子は動き続けている。
これが動かなくなるのが絶対零度(ケルビン温度の「O度」)、すなわちマイナス273℃だ。絶対零度から温度が上がると、原子・分子運動が始まる。すなわち氷点下(0℃)であっても水は蒸発し、水蒸気になれるのだ。これを「シャルルの法則」という。ボイルの法則と合わせて「ボイルシャルルの法則」と呼び慣わしいる。
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