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週刊 Life is Beautiful 2022年9月13日号:イノベーションを起こす組織と人と

週刊 Life is beautiful
今週のざっくばらん イノベーションを起こす組織と人と 私は、Microsoft や (自分で創業した)UIEvolution (Xevo Inc.) も含めて、いくつかの会社とさまざまな人と一緒に仕事をして来ましたが、一つだけ大切にしていることは、お互いに信頼出来る優秀な人との関係を長く保つことです。 人材の流動性の高い米国では、転職は日常茶飯事で、人の会社への「帰属意識」は日本と比べてはるかに低いと言っても良いと思います。しかし、逆に「この人なら信頼出来る」「この人とならまた別の会社で働きたい」とお互いに思えるような人との関係はとても強く、そんな関係が、会社という枠組みを乗り越えてネットワーク上に張り巡らせており、それがリクルート活動(雇う方と雇われる方の両方)でとても重要な役割を果たしています。 今回、そんな関係を持つ人の一人から、彼が最近転職した先の医療関係の会社(Alcon、テキサス州本社)のイベントで基調講演をしてほしいと頼まれたので、話す内容を考えているところです。 話すテーマとしては、Speed of InnovationImpact on Missing out / Moving Slow /ExamplesFuture of Digital / Where the marketing is going の三つを与えられています。 期待されているのは、私がMicrosoft時代に関わった製品開発の話から、何らかの教訓のようなものを引き出した上で、今後、Alconが、そしてそこで働く人々が、どんな行動を取れば良いのかという示唆を与えることです。 製品開発の話としては、Windows95の話が一番面白いとは思うのですが、全部話すと長くなってしまうので、そこが悩ましいところです。 キーとなるポイントは、私がSmalltalkでプロトタイプを作り、それがMicrosoftの「未来のOS」として発表されてしまった話「次世代OS」として会社が本腰を入れたCairoプロジェクトが、あまりに巨大なプロジェクトになって破綻してしまった話私がそのプロジェクトから抜け、「中継ぎ」でしかなかったはずの Windows 3.x チームに移籍して、「未来のOS」から数多くのアイデアを拝借して実装してしまった結果が Windows 95になった話 の3つです。時間があれば、そこに、Windows95とInternet Explorerの統合は、私のプロトタイプがきっかけで始まり、Windows98の目玉になり、Netscapeからシャアを奪うのに成功したものの、独禁法に引っかかり、$1 billion の罰金を支払うことになってしまったこと。 を加えることが可能です。 同様の時期に、Apple も「次世代OS」(PinkとTaligent)を開発しようとしたけれど失敗し、1985年にAppleから追い出された Steve Jobsが作った NeXT を1997年に買収し、そこが開発していた NeXTSTEP という OS が、Mac/iPhone/iPad 向けのOSのベースになっている点は、非常に興味深いと思います。 両者に共通するのは、Microsoft と Apple の両方の会社で、「社運を賭けた次世代OSの開発」が失敗しているという点、そして、どちらにケースでも、次世代OSを開発することとなったのは、本流とは異なる部隊(MicrosoftではWindows 3.xチーム、AppleではNeXT)が起こしたという点です。 イノベーションは必ずしも経営陣が計画した通りには起こらず、個々のエンジニアが起こすイノベーションが、会社によって上手に引き出された時に起こる、という点は強調しても良いと考えています。 大きな会社において、個々のエンジニアが起こすイノベーションをいかに会社としてのイノベーションに繋げていくか、というのはとても難しい問題ですが、MicrosoftとAppleの事例から、学べることは多数あると考えています。 次に、未来の話をする下準備として、私がこのメルマガでも何度か触れている「デジタル・トランスフォーメーション(DX)は外からやってくる」という話もここでしたいと考えています。 DXは、単なる既存のビジネスプロセスのデジタル化・自動化ではなく、デジタルの技術を活用したあらたなビジネスの創出なのです。インターネットを活用した書籍の販売は、Bordersや紀伊國屋書店のような既存の書籍販売ビジネスの会社が起こしたのではなく、実店舗を持たずに書籍のオンライン販売を始めたAmazonが起こした点は、注目すべき、とても重要な点です。 今回、講演をする相手は、医療ビジネスの大手なので、不必要に脅す必要はありませんが、単にこれまでのビジネスをデジタル化するだけでは不十分であり、デジタル技術を活用した新しい価値を生み出し、既存のビジネスを破壊するぐらいの意気込みが必要だと強調したいと考えています。 今後の展望に関して言えば、とにかく人工知能の技術が重要な役割を果たすことを強調したいと思います。 今の人工知能のベースになっている、ニューラルネットワークという発想は1960年代からあるものですが、実際に使えるものとして花開いたのは、ごく最近(2011から2012年)のことです。その後のイノベーションのスピードは素晴らしく、画像認識では人間の認識能力を上回るところまで来ているし、それ以外にも、物体認識、翻訳、画像生成などでさまざまなイノベーションが同時に進行しています。 私が関わっているドローンベンチャーが注目している NeRF (Neural Radiance Field)というテクニックは、2020年に UC Berkeley の研究者たちによって作られた、これまでとは全く異なる「3Dキャプチャ」の手法ですが、その後わずか2年の間に起こったイノベーションのスピードは目をみはるばかりです。 Elon Musk が作った OpenAI が開発したGPT-3とDALL·Eは、人工知能のイノベーションを大きく加速させました。 ひと昔までまでは、人工知能に、人間が行っている「文章を書く」「ものごとを分かりやすく説明する」「絵を描く」などの創作活動を行わせるには、人間の脳と同じく、いろいろなものを「理解」した上で考える力を持つ「汎用人工知能」が必要と考えられてしまいした。 しかし、「汎用人工知能」は大きな非連続的なイノベーションが必要で、今世紀中には起こらないだろうと悲観的な意見を言う研究者もいました。 しかし、GPT-3とDALL·Eが証明してくれたのは、今の技術(深層学習)を積み重ねて行くだけで、人工知能に創作活動をさせることすら可能で、「汎用人工知能」を待たずに、数多くの仕事を人工知能が人間より上手にこなしてしまう時代が来る、という驚異的な事実です。 この分野のイノベーションが過去のものと大きく違うのは、人間が作ったアルゴリズムではなく、データを使って教育したニューラルネットワークが問題を解決する時代になった大学で行われている「研究」がイノベーションを牽引しており、それが従来とは異なる「オープン・イノベーション」を可能にしており、それがイノベーションのスピードを加速している という二つです。 特に二つ目の「オープン・イノベーション」がとても重要で、企業も一昔前のように「技術の囲い込み」をしたままではイノベーションに乗り遅れてしまうし、優秀な人が雇えません。また、作った技術はすぐに陳腐化してしまうので、「世界中の研究者たちが毎日のように発見している新たな手法をすばやく製品に反映させていく」というプロセスを意識して作る必要があります。 このイノベーションは必ず医療の分野にも適用され、それが病気の予防や個別治療など、これまでコスト的に現実的でなかった医療サービスを提供することが可能になることが確実で、そこに適切な投資をしない会社は、Amazonに駆逐されてしまった書籍販売ビジネスのような存在になってしまう可能性が高いのです。 Apple Watch Ultra

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