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週刊 Life is Beautiful 2022年6月21日号:中学生にも分かるWeb3、現状のWeb3が持つ課題

週刊 Life is beautiful
今週のざっくばらん 中学生にも分かるWeb3-5(メルマガ限定) Web3の本質と、現状のWeb3が持つ課題 少し前に書いた通り、Web3という言葉は、ユーザーが作ったコンテンツを活用するサービスを総称したWeb2.0から派生した言葉です。一般的には、Web1: コンテンツをサービス事業者が提供するサービスWeb2: コンテンツをユーザー自身が提供するサービスWeb3: ブロックチェーンを活用する非集権的なサービス と言われています。 こうやって並べて書くと明らかになりますが、1 と 2 に関しては、「誰がコンテンツを提供するか」という視点で語っているのでとても分かりやすいのですが、Web3 になると、「ブロックチェーン」という技術用語が出てくるし、「非集権的」という理解し難い言葉が出てくるので、訳がわからなくなってしまう人が多いのだと思います。 技術的用語を省いて、かつ、分かりやすく、正確に書くと、Web1: コンテンツをサービス事業者が提供するサービスWeb2: ユーザー自身が作ったコンテンツをサービス事業者が活用して運営するサービスWeb3: 特定のサービス事業者に依存せず、人手を借りずに自律的に運営されるサービス となります。 重要な点は、ここで言う「サービス事業者」とは、サーバー・インフラを提供するAmazonやMicrosoftのことだけを指すのではなく、アプリケーションを開発・提供したアプリケーション開発者も含む点です。 正しい作り方をした Web3 アプリケーションは、一度ブロックチェーン上に放たれると(デプロイされると)、開発者や管理者がいなくても自律的に走り続け、世の中に価値を提供し続けるのです。 これこそがブロックチェーンとその上のスマートコントラクトが可能にする「GAFAの存在しない非中央集権的な世界」であり、Web3の世界に関わる全てのエンジニアは、その世界を目指して真っ直ぐに突き進むべきなのです。 しかし、現時点でのWeb3はまだまだ発展途上であり、その理想とは程遠い状況です。「ガス代」と言われる手数料が高すぎるし、ブロックチェーンのスケーラビリティ(大規模なアクセスに対応する能力)もまだまだ不足しています。 Web3業界が抱える最も大きな問題は、この過渡期の混乱に乗じて、(早く参加した人が得をする)ポンジスキームやねずみ講に近い仕組みで消費者の弱み(欲や射幸心)に付け込んで搾取するビジネスが数多く立ち上がっていることです。Axie Infinity に代表される「Play2Earn ゲーム」が良い例だし、Defi(Decentralized Finance)の多くも、ポンジスキーム的なリスクを抱えています。 たちが悪いのは、そういったサービスが、実際のところは中央集権的であるにも関わらず、「理想のWeb3」から「非中央集権的」「DAO(Decentralized Autonomous Automation)」などの格好の良い言葉だけ借りて来て、宣伝文句に使っている点です。 さらに問題なのは、そういった「なんちゃってWeb3ベンチャー」にA16zのようなシリコンバレーのVC(ベンチャー投資家)から大量のお金が流れ込み、「Web3時代のGAFA」を作ろうとしている動きです。 私から見れば、「VCから資金調達し、ストックオプションを活用して優秀な社員を集め、会社を大きくして、上場なり売却という形のエグジットを目指す」という従来型のベンチャー・ビジネスとWeb3はとても相性が悪いのです。 特にシリコンバレーが長年行って来たベンチャー・ビジネスは、「一つの分野で圧倒的なシェアを握ることにより、参入障壁を高くして、大きな利益を独占的に上げる」という、とても中央集権的なビジネスモデルを前提としたビジネスであり、「ブロックチェーンにデプロイ後は、管理者なしに自律的に価値を世の中に提供し続けるサービス」とは、根本的に目指す方向が異なっています。 A16z は、シリコンバレーのVCの中では、最もWeb3に前のめりなVCと言われていますが、最大のWeb3の理解者が、本来Web3が目指すべき方向とは別の方向(中央集権化を促す方向)に向けて投資をしているという、とても皮肉な状況になっているのです。 WWW、CGI、Ajax、SPA、Dapps 上の話を理解する上で、一般的なウェブサービスがどんな設計で作られているのか、そして、Dapps と呼ばれる Web3 アプリケーションはどこが異なるのかを知っておくことはとても重要なので、簡単に解説します。 当初、WWW(World Wide Web)と呼ばれたインターネットが出来たばかりのころは、どのサーバーも指定されたファイル(HTMLページや画像)を返すだけのとても単純な仕組みでした。 しかし、その方法だと、ユーザーがアクセスする全てのページをHTMLファイルとして持っておかなければならないため、「電話帳」のように大量のデータを扱うサービスには適していません。 そこで作られたのが、CGI(Common Gateway Interface)と呼ばれる仕組みで、ブラウザーからのリクエストに応じて、PHP(プログラミング言語の一つ)などで書かれたプログラムを走らせ、データベースから取り出したデータとテンプレートを組み合わせることにより、オンデマンドでHTMLページを生成する手法です。 今では、PHPだけでなく、Java、Ruby、C#、JavaScriptなどを活用したさまざまな開発環境があり、CGIという言葉はあまり使われなくなりましたが、基本的には、これが Web2.0 に至るまでのアーキテクチャです。 そんな中で、ウェブページのユーザーインターフェイスをリッチなものにしようと言う試みとして、AdobeからFlash、MicrosfotからActiveXという独自の仕組みが提供され、それがよりオープンな jQuery を活用したAJAXに置き換えられたのは特質に値するイベントです。各種あるブラウザーの上にオープンソースで開発環境を作ることにより、違いを吸収し、かつ、より生産効率の高い環境を提供しようという試みです。 そんな中で、jQueryを置き換える形で台頭して来たのが、ReactやVueを活用した「リアクティブ」な開発環境であり、それを活用したSPA(Single Page Application)です。 CGIの時代には、テンプレートとデータベースから取り出したデータを組み合わせて(データバインド呼ばれます)Webページをサーバー側で生成されていたものが、そのデータバインドがブラウザー側(クライアント側)で行われるようになったのです。 この変化は、MVC(Model View Controller)モデルでいうところの Controller の部分がサーバーからクライアントに移動した、と表現しても良いものです。サーバー側(バックエンド)は、デーベースとその周りのビジネスロジックだけを実行すれば良いようになり、その結果、作られたのが(常に走り続けているサーバーが不要な)サーバーレスなアーキテクチャであり、(ビジネスロジックを宣言型で記述する)Firebaseなのです。 ここまでが、ブロックチェーン誕生以前までの流れです。コンテンツを提供するのがサービス事業者なのか、ユーザーなのかに関わらず、サービスを開発し提供し続けるサービス事業者は必須だし、そのサービス事業者のサーバー・インフラを支えている、Amazon、Google、Microsoft などのインフラ企業も必須なのです。 GAFA、もしくは Microsoft を加えた GAFAM の中で、Appleを除いた全ての会社は、サービス事業そのものだけでなく、インフラ事業でも重要な役割を果たしている点に注目してください。 そこで誕生したのがブロックチェーン、および、その上で動くスマートコントラクトです。スマートコントラクトは、世界中にあるマイニングマシンにまたがって動く、巨大なバーチャル・マシンの上で動くソフトウェアです。 従来型のアーキテクチャで言えば、データベースとその上で動くビジネスロジックの役目を果たすのがスマートコントラクトです。 そのため、Web2.0の時代に進化して来た React や Vue と非常に相性が良く、従来型のバックエンドをスマートコントラクトで実装したDapps (Disributed Applications)と呼ばれるアプリケーションが作られるようになりました。 しかし、現時点のブロックチェーンは、データベースに何かを書き込むためにガス代がかかるため、このアーキテクチャで作れるアプリケーションは限定的です(Nouns DAO のウェブサイトはその典型的な例です)。 そのため、多くのWeb3サービス(私が知るかぎる全ての Play2Earn ゲーム)は、従来型のバックエンドとスマートコントラクトの両方を活用した、ハイブリッド形の Dapps として作られています。

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