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週刊 Life is Beautiful 2021年7月20日号

週刊 Life is beautiful
今週のざっくばらん インフルエンサー・ビジネス 私には息子が二人いますが、若い方の正太が料理人で、2016年にシアトルに「Adana」という名前のレストランをオープンしました。日本の「割烹」を意識した、「ちゃんと料理した日本料理」を手軽に食べられるレストランです。米国では「日本料理といえば寿司」のイメージが強い風潮に逆らったアプローチで、それなりの成功を納めていました(下の写真は、ピアニストの Lang Lang が食べに来てくれた時のもの)。 2020年の3月に、数ヶ月間準備していた二軒目のレストラン「Taku」をオープンしました。「Adana」と比べると半分ぐらいの大きさですが、バーカウンターに座って串揚げを食べながらお酒を飲む、より手軽なレストランです。飲食業界では、「客単価の高いフランス料理よりも、回転の早いラーメン屋の方が儲かる」ことは良く知られていますが、まさにそこを狙った店舗でした。 実際にオープンすると、行列が出来るほどの大繁盛で、「Taku」のコンセプトがシアトルの若い人たちのニーズにマッチしていることが証明されました。そのころ、既に新型コロナの流行が始まっていましたが、まだ一般の人たちの間には危機感もなく、マスクをしている人もいませんでした。 しかし、開店3日目に来たのが、ワシントン州知事からの小売・飲食店への営業停止命令です。ロンドンやニューヨークで起き始めていた医療崩壊を受けた施策です。日本のような法的拘束力のない「要請」ではなく「命令」なので、選択の余地はなく、完全なロックダウンです。 二軒目をオープンしたばかりの正太は途方に暮れていましたが、両方のレストランを閉じ、「Taku」で雇ったばかりの人も含め、従業員全員を解雇するしかありませんでした。 幸いなことに、従業員には失業手当に加えて政府からの補助金が出ましたが、レストランの経営者は、とても厳しい状況に追い込まれました。従業員を解雇したとしても、家賃などの固定費はゼロにならないので、キャッシュフローがないまま、赤字を垂れ流しすることになるからです。 正太は、それぞれの店舗の大家との交渉を開始し、「Taku」だけを残し、一軒目の「Adana」の方は完全に店を閉じることに決めました。それなりのブランド力も持っていた「Adana」を諦めるのは、彼にとっても苦渋の選択だったと思いますが、今になって考えてみると、「潔い決断」でした。 懸命にビジネスを育ててきた「Adana」を閉じ、せっかくオープンしたばかりの「Taku」も開けられない状況に追い込まれた正太に親として出来ることはほとんどありませんでしたが、その時に私が提案したのが「Youtuber になること」でした。 私としては「どうせ店を開けられないのだから、余った時間で料理に関する動画を Youtube に投稿して、ファンを確保しておけば、後で店を出す時に大きなプラスになる」という思いの提案でしたが、その時はまったく相手にしてもらえませんでした。 彼に転機が訪れたのは、7月の中旬でした。Bravo というテレビ局から、「Top Chef」という番組に出場することに興味はないか、という連絡が来たのです。「Top Chef」は、米国の各地から選ばれた若手のシェフが料理の腕の競い合うリアリティ・ショーで、高い視聴率を誇る Bravo の看板番組です。 日本の「料理の鉄人」をトーナメント方式にし、最初は16人いたシェフが、毎週料理の腕を競い合って1人づつ脱落して行き、15周目の決勝戦で勝ったシェフには、25万ドル(約2700万円)の賞金と「Top Chef」というタイトルが与えられるという番組です。 結果から先に言えば、正太は地区予選を勝ち抜いて番組に出場し、決勝戦まで勝ち残ったものの、惜しいところ優勝を逃すという結果を残したのですが(‘Top Chef’ Season 18 Finale: And the Winner Is…)、それが彼の人生を大きく変えることになりました。 放映されたのは今年の4月から7月にかけてでしたが、放送が始まった時には、彼も Youtube や Instagram の重要性を理解しており(番組を通じて知り合った「元 Top Chef の出場者」から、SNSの重要性を教わったようです)、放送が始まった時点で8000人しかいなかった Instagram のフォロワーが、放送が終わった時点では5万人を超えていました(この原稿を書いている時点で7万人超)。 「テレビの時代は終わった」と言われてはいますが、やはり影響力は大きく「テレビへの露出を利用してインターネット上のプレゼンス(存在感)を増やし、財産にする」という戦略が非常に有効であることを、証明しています。 結果として、既に食品業界、商業施設、テレビ局などから数多くのオファーが来ており、今後は、インフルエンサーとして食べていけるのでは、と期待しています。
これはバックナンバーです
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