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週刊 Life is Beautiful 2021年6月8日号

週刊 Life is beautiful
今週のざっくばらん ゾーンの話 ソフトウェア・エンジニアとして働いていると、しばしば「ゾーンに入ることが大切」という話が話題になります。集中力が上がって、生産効率が上がる現象を指しますが、スポーツにおけるゾーンとは少し違うし、単に「集中できる環境を作れば良い」という話ではないので、今日はその話をします。 スポーツにおける「ゾーン」とは、体が「何もかも上手に出来てしまう状況」に入ることです。私もゴルフをしていて何度か経験がありますが、入ろうと思えば入れるものではなく、逆に一度ゾーンに入ってしまった後は、余計なことを考えずに、体に任せてしまった方が長くゾーンにとどまっていることが出来ます。 プロゴルファーは、1日何時間も球を打ちますが、それは正しいスイングを体に覚えさせるためで、いざ本番になると、スイングやグリップのことなど考えずに、体に覚えたままのスイングをさせた方が良いのです。つまり、日々の練習で、体が「正しいスイング」を覚えているからこそ、ゾーンに入ることが出来、一度ゾーンに入ったら、余計なことは考えない方が良いのです。 プロゴルフツアーのトーナメントで優勝できる人とそうでない人の差は、ゾーンをどこまでコントロールできるかにかかっています。せっかくゾーンに入って良いスコアが出ていたのに、勝ちを意識するあまり、ゾーンを壊してしまい崩れてしまうゴルファーがたくさんいます。 プログラミングにおけるゾーンにも、スポーツのゾーンと似ている部分はありますが、一つの大きな違いは、「仕事をしているのは体ではなく頭脳である」という部分です。そのため、スポーツのゾーンのように「余計なことを考えてしまったために、壊れてしまう」ほど脆いものではありません。 とは言え、集中して仕事をしている時に話しかけられたりすると、そこで集中力が途切れてしまうことがあり、これを「せっかくのゾーンから引き剥がされる」と感じる時があるのは事実です。FacebookやTwitterで他の人とコミュニケーションを取りながら仕事をしても、なかなか集中して仕事が出来ないのも同じ理由です。 多くの人は、この「他のことを何も考えずに集中して働く時間」のことをゾーンと呼びます。そんな時間をしっかりと取ることは、確かにとても大切ですが、もっと大切なことは、(プロジェクトの必要性に応じて)数週間に渡って、自分をゾーンに入れることです。 なぜ、そんなことが可能かというと、プログラミングとは問題解決の連続であり、問題を解決出来るのは、コンピュータの前に座っている時間だけではないからです。 私は、大きな問題に直面した時に、可能な限りそれを独立した小さな問題に分割します。そして、それぞれの小問題を、15分から1時間ぐらいの「一切邪魔が入らない集中した時間」で解決するように試みます。 ほとんどのケースはそれでうまく行くのですが、どうしても分割出来ないケース、可能な限り分割したとしても一つの問題があまりにも難しくて、一まとまりの時間で解決できないことがどうしてもあります。そんな時には、仕事時間をまたがって問題解決をすることが必須です。 そうでなくても、沢山の小問題が目の前に山積みになっている場合、それぞれの問題をどうやって解決するかを、コンピュータの前に座る前に前もって考えておくことも、生産効率を上げる上ではとても大切です。 そんな仕事の仕方をしていると、食事をしている時も、電車に乗っている時も、頭の中でプログラミングをすることが可能になります。それこそが、本当の「ゾーン」です。寝入り端に、目を閉じて難しい問題のことを考えながら眠ると、朝起きると、問題の解決の糸口が見つかっていることがあるのも、そんな「ゾーン」に入ることが出来た時だけです。 本格的にゾーンに入っていると、本を読んでいても、テレビを見ていても、頭に一切入って来ません。目は映像や文字を追っていても、頭はプログラミングをしているのですから。最悪の場合、目の前の人の言葉も、耳には届いていますが頭には入って来ないので、生返事はしてしまうし、何を言われているかも覚えていません。周りの人たちにとっては、とんだ迷惑ですが、それがゾーンに入ったソフトウェア・エンジニアの姿なのです。 後から考えてみると、「どうやってこんな凄いプログラムを書いたのだろう?」「なぜ、こんな短期間でこのプログラムを仕上げることが出来たのだろう」と自分でも感心することがありますが、そんな仕事をした時は、私は必ず、数週間のゾーンに入っています。 数週間の間、何もかも忘れて24時間プログラミングのことだけを考えて(つまり、ゾーンに入って)仕事をしたからこそ、後から考えて「超人的な仕事」が出来るのです。
これはバックナンバーです
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