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週刊 Life is Beautiful 2021年5月25日号

週刊 Life is beautiful
今週のざっくばらん 自動運転の難しさ Youtube に「Waymo Self Driving Taxi Fumbles In Construction Zone, Blocks Traffic」というタイトルのビデオが投稿されているのが目に止まりました。自動運転の難しさを表す、とても良い例です(長いビデオなので、リンクは適切なところからスタートするようにしてあります)。 小さな道路から、片道2車線の道路に右折(右側通行なので、対向車線を横切らずに曲がれます)をしようとしたところ、右側の車線(歩道に近い側の車線)が工事によりブロックされており(ロードコーンが車線の真ん中に置いてあります)、そこで Waymo の自動運転車が行き詰まってしまっている例です。 人間の運転手であれば、右側の車線が使えないことを認識して、(安全を確認した上で)右から二番目の車線に向かって右折しますが、自動運転車は「複数車線の道に右折する場合には一番右の車線を使う」という基本ルールに忠実に従おうとするばかりに、動けなくなってしまったのです。 ソフトウェア・エンジニアの目線からすれば、今回の問題は「こんなケースを想定していなかった」ということで、こんなケースに遭遇した場合には、「複数車線の道に右折する場合には一番右の車線を使う」とうルールに従わなくても良いという判断をするアルゴリズムを追加すれば良いという話になります。 現在の自動運転は、Waymo にしろ Tesla にしろ、こんな感じで、色々なケースを一つ一つアルゴリズムに組み込むことにより日々、進化を続けています。それはそれで悪くはないのですが、それで人間と同じような柔軟な運転が出来るようになるかについては、意見が分かれるところです。 人間のドライバーの場合、自動車の免許を取る際には一通りの交通規則を学びますが、当然ですが、そこに規定されていることは、典型的なケースのみであり、実際の道路で出会うような全てのケースを想定して勉強することなど不可能です。 にもかかわらず、人間が上のようなケースでもちゃんと行動出来るのは、何が起こっているのか(このケースでは、工事中で右側の車線が使えなくなっていること)を「把握」した上で、「仕方がないので、右から二番目の車線を使う」という「柔軟な判断」が出来るのです。 もっと分かりやすい例としては、サッカーボールが道路に転がり出てきたケースを考えてみてください。その場合、多くの人間の運転手は、「サッカーボールを追いかけて子供が飛び出てくるかも知れない」と考えてスピードを落とします。そこには、「このサッカーボールで遊んでいたのは子供だろう」「子供は何も考えずにサッカーボールを追いかけて飛び出してくるかも知れない」という「常識に基づいた判断」が入っているのです。 現時点での人工知能は、最先端のものでも、あらかじめソフトウェアに組み込まれた「想定しうるさまざまなケース」に対応するだけであり、その手の「状況の把握」や「柔軟な対応」は全く出来ません。少しでもそこから逸脱したものがあると、判断が出来なくなってしまう(もしくは、似たようなケースに合わせた判断しか出来なくなってしまう)のです。 つまり、現時点の技術で、サッカーボールが転がり出てきたらブレーキを踏む自動運転車を作るには、その後に子供が飛び出して来る映像を学習データとして大量に与えたり、「サッカーボールを認識したらブレーキを踏む」というアルゴリズムを明示的に組む必要がああります。当然、サッカーボールだけでは不十分なので、バレーボール、ビーチボール、バスケットボールなどを含むデータを与える必要があります。 ここ数年、人工知能は深層学習というテクニックにより大きく進歩し、画像認識・物体認識・自動翻訳などの分野で人間を凌ぐほどの能力を発揮していますが、あくまでそれは、大量の教育データに基いた統計的な判断をしている、「専用人工知能」でしかありません。 自動運転に関しても、それらと同じく「専用人工知能」の組み合わせで、かなり人間の運転手に近づくことが出来るし、想定されうる範囲であれば、人間の能力を超えることはあると思います。しかし、実際の道路では、さまざまな「想定外のこと」が日常的に起こっており、そんな状況を人間と同じく「状況の把握をした上で柔軟に対応する」には、「汎用人工知能」に近いものが必要であり、そこに至る筋道は、最先端の研究者の間でも糸口すら見つかっていないのが現状なのです。 言い方を変えれば、自動運転の進歩を語る上では、「汎用人工知能なしで、どこまで安全に出来るのか」という部分がとても重要でなのです。 Elon Musk は、自動運転の実用化に関して、常に強気の発言をしていますが、それは彼が、「汎用人工知能なしで、今の専用人工知能で十分に安全な自動運転車が作れる」と確信しているからとも言えます。逆に、最近になって Waymo の経営陣の発言が消極的になっているのは、研究者たちが、これまでのアプローチに限界を感じているからだ、とも言えます。 リゾート地から働くというライフスタイル
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