週刊 Life is Beautiful 2021年5月4日号

週刊 Life is beautiful
今週のざっくばらん チップの歩留まりの話 気がついた人も多いと思いますが、Apple が新たに発表した M1 チップ搭載の iMac でも、MacBook Air と同様に、廉価版は GPU Core を7つ搭載しています。 これがチップの「歩留まり」の向上のためだという話は、前に書きましたが、少し丁寧に説明してみます。 「歩留まり」とは、半導体に限らず、製造全般において、製造した製品の中で、出荷に値する品質が出ている製品の率を示します。 100個作成して、10個が不良品であり、90個しか出荷出来ないとすれば、歩留まりは90%になります。 歩留まりは高い方が良いに決まっていますが、製造コストや性能などとのトレードオフになるため、必ずしも100%を目指すことが正しいとは限りません。 月産1000個のペースで生産すれば、安定して歩留まり100%が確保出来る製造装置で、月産2000個に増やすと歩留まりが90%に落ちてしまうとしても、同じ装置から1800個の製品が作れるのであれば、その方が良いという判断を下しても不思議はないのです。 M1のように最新の技術(5nm プロセス)を使ったチップの場合、歩留まり100%にすることは無理で、実際には70%とか80%などの数字になる方が一般的です。 仮に歩留まりが75%だったとすると、1000個作ったうち、250個を捨てることになってしまいますが、設計と製品構成を工夫すると、その250個のうちいくつかのチップを製品として使うことが可能になります。 M1チップは、8個のGPUコアを搭載していますが、GPUコアの一つが動かなくても、問題なく動作するような設計にしておけば、250個の不良品の中から、GPUコアの一つだけが動かないものを見つけだし、それらを廉価版のパソコンのチップとして製品に使用することが可能になるのです。 「なんだかセコイ話だ」と思うかも知れませんが、半導体の世界では当たり前に行われていることです。 Intel のチップは、3.0GHz、3.5GHz など、動作スピードによって異なる値付けがされていますが、これは、3.5GHz の性能を目指して製造したけど、実際には 3.0GHzでしか安定して動作しない不良品を安く販売しているだけなのです。 Nvidia の GeForce GTX 480 (2010年の製品)は、32個のCUDAコアを搭載したマルチプロセッサユニット(これが Apple の GPU コアに相当します)を16個搭載した製品でしたが、実際に使えるのは15個のプロセッサユニットだけでした。 Apple と違って、15個のプロセッサユニットしか動かないチップを廉価版として売るのではなく、実際には16ユニット使えるチップも横並びで15ユニットに減らした上で、(実質的な歩留まりを上げて)販売したのです(なぜNVIDIAのGeForce GTX 480はプロセッサ数が減ったのか)。 こんな工夫により、「実質的な歩留まりを75%から90%に上げる」などが可能になるのであれば、ビジネスとしては当然すべきことだし、少しだけ性能の劣るパソコンを安価に入手出来るユーザーにとっても喜ばしいことです。 Apple が MacBook Air だけでなく、iMac でも7コアの廉価版を売り出したということは、製造したチップの中に「GPUコアのうち7個しか動かない」チップが、少なくとも2〜3パーセントの比率で存在していることを意味している、と私は解釈しています。 ちなみに、チップに不良品が出るのは、広さに応じて、一定の比率で欠陥が生じるためです。チップの大きさをあまり大きく出来ないのはそれが理由です。 例えば、ある製造過程で100mm2(1cm四方)の大きさチップの歩留まりが80%だった場合、これを200mm2に増やすと、歩留まりは64%(0.8 x 0.8)に下がってしまいます。1,000mm2に増やせば、10%にまで下がってしまいます。 それが10,000mm2(10cm 四方)のチップが存在しない理由です。歩留まりが限りなくゼロに近づいてしまうのです。 上に書いた発想を使えば、10cmのチップも十分に可能です。GPUのコアを1000個搭載し、そのうち少なくとも半分(500個)が動けば製品化出来るように設計しておけば、歩留まりをほぼ100%にまで引き上げることが可能です。さらに、600個が動作するもの、700個が動作するもの、を通常よりも高い価格で売ることすら可能です。 ちなみに、M1チップは、GPUだけでなく、CPUも8コア搭載しているので、ここでも同じことが出来そうですが、CPUの方は、高性能のコアが4つに、低消費電力のコアが4つという複雑な設計のため、同様のことをすると、製品のラインアップが複雑になってしまいます。 今後、Apple は、さらにGPUコアやCPUコアを増やす方向でチップを進化させると思いますが、現時点で使える 5nm プロセスに留まる限りは、チップを大きくするしかなく、その場合には、「実質的な歩留まり」を上げる工夫がさらに必要になってくると予想できます。
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